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ついにわかったニホンウナギの出生地〜日経サイエンス2006年5月号より

マリアナ諸島沖,スルガ海山の近くであると特定された
日本付近に戻るために,ごく限られた海域で産卵されているようだ

 

長年の謎とされてきたニホンウナギの産卵場所が,北太平洋のマリアナ諸島沖,スルガ海山近傍であることを,東京大学海洋研究所の塚本勝巳(つかもと・かつみ)教授らが突き止めた。これまではマリアナ諸島西方沖と考えられていたものの,具体的な場所は特定できていなかった。「日本や中国付近に確実に到達する回遊路に乗るために,特定の狭い海域で産卵される」(塚本教授)らしい。

 

ふ化からまもない仔魚の捕獲に成功

研究グループは昨年6月,海洋研究開発機構(JAMSTEC)の学術研究船「白鳳丸」で現場海域を航行,マリアナ諸島の北西約320km沖にある3つの海山のうち最も南にあるスルガ海山付近で,ふ化後約2日のウナギの仔魚(しぎょ)約400匹の捕獲に成功した。「プレ・レプトセファレス」と呼ばれる卵黄が吸収されるまでの仔魚で,全長は4.2~6.5mm。ふ化後2~5日経過している。遺伝子解析でニホンウナギと確認できた。
ニホンウナギは受精から約1.5日でふ化することがわかっている。現場付近では秒速25cm程度の海流が西向きに流れているため,日齢から逆算して,産卵場所はスルガ海山であることがわかった。
スルガ海山は北緯約15度,東経約143度にあり,周辺には水深3,000~4,000mの海底が広がっている。海山の頂上は水深約40mで,産卵域は頂上を取り囲む海域とみられる。「海山が親ウナギにとって産卵場所の目印になっている可能性もある」(塚本教授)という。
ニホンウナギの産卵場所の調査は1930年代に始まったが,プレ・レプトセファレスがさらに成長したレプトセファレスが最初に採集されたのは1967年。1971年には東大海洋研のグループが北緯15度・東経140度あたりが産卵場所であることを突き止めた。その後1990年代から継続的に調査を進めていたが,ふ化直後のプレ・レプトセファレスや卵,産卵中の親ウナギが見つからず,場所を特定できていなかった。
塚本教授らは従来の調査で採集されたレプトセファレスの記録と海流データ,海底地形図を詳細に解析,産卵場所がマリアナ諸島の3つの海山の近くであるという仮説を提唱し,同海域を集中的に調べていた。

 

ピンポイントで産卵するわけ

もう1つ注目されるのが,産卵場所が“ピンポイント”であった点だ。1922年,ヨーロッパウナギとアメリカウナギの産卵場所がデンマークの海洋学者シュミット(Johannes Schmidt)によって特定されたが,これらは大西洋のサルガッソー海全域に広がっている。ニホンウナギの産卵場所がピンポイントだった理由について,塚本教授は「太平洋と大西洋の海流の違いだろう」と推測する。
ウナギの仔魚はふ化後,海流に乗って北上し,陸域沿岸や河川で生活する。大西洋の北半球側は北大西洋海流の影響が強く,ある程度広範囲で産卵しても,ほぼすべてこの海流に乗ることができる。一方,太平洋では北赤道海流がフィリピン東方沖でミンダナオ海流と黒潮に分かれる。「ミンダナオ海流に入ったウナギの仔魚はその後死滅する。確実に日本付近の河口に達するには黒潮に乗る必要があり,厳密に決まった海域で産卵されているのではないか」と塚本教授は説明する。
半世紀以上に及ぶニホンウナギの出生地探しには終止符が打たれたが,ウナギの繁殖生態はまだ謎に包まれている。研究グループは,今回採集したプレ・レプトセファレスの遺伝子解析などをさらに進め,メスの産卵様式についても解明を進めている。
Nature誌2月23日号に掲載された。

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