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ホタルの光はなぜ黄緑色?〜日経サイエンス2006年7月号より

発光のカギは酵素と基質のつながり方だった

 

 黄緑色の光を放ちながら川面を飛び交うホタルの姿を見かける季節がやってきた。実はこのホタル,世界で最もエネルギー変換効率のよい“発光装置”の持ち主だ。

 

 では,どうして黄緑色なのだろうか。このほど京都大学と理化学研究所のチームがそのメカニズムを解明した。発光に関係する酵素ルシフェラーゼの立体構造のなかで,たった1つのアミノ酸がカギを握っていた。

 

スプリング8で原子レベルの変化を追跡

 ホタルの発光は,酵素ルシフェラーゼと発光のもとになる基質ルシフェリンが反応することで起こる。まずルシフェリンがルシフェラーゼのなかでATP(アデノシン三リン酸)と反応し,中間化合物を生成する。この化合物がルシフェラーゼの作用で酸化されてオキシルシフェリンという物質になり,これがエネルギーを放出して光を出す。

 

 ここまでは以前からわかっていたが,基質を含むルシフェラーゼ分子の正確な立体構造が突き止められていなかったため,黄緑色の光を放つ仕組みは不明だった。

 

 理化学研究所播磨研究所の加藤博章(かとう・ひろあき)チームリーダーと京都大学の中津亨(なかつ・とおる)助教授らは,ゲンジボタルのルシフェラーゼ遺伝子を大腸菌に組み込み,ルシフェラーゼを大量に作らせて,純度の高い結晶を作った。

 

 この結晶ルシフェラーゼの立体構造を大型放射光施設SPring-8(スプリング8)で詳しく解析した。さらにルシフェラーゼの立体構造が一連の反応に伴って変化していく様子を追跡しようと,1.3Å〔1Å(オングストローム)は0.1nm〕の分解能を持つX線結晶構造解析によってとらえることを試みた。1Åといえば,およそ原子1個の大きさに相当する。ここまで細かい立体構造を観察できれば,反応の全体像を把握できるはずだ。

 

 また,結晶化しにくいためこれまで扱えなかった中間体について,よく似た化合物を人工的に作製。これとルシフェラーゼを組み合わせて,ルシフェラーゼの構造が反応前,反応直前,発光後でどう変わるかを比較した。

 

アミノ酸が変わると赤や橙色に

 すると反応直前では,ルシフェラーゼを構成しているアミノ酸のうち288番目のイソロイシンがオキシルシフェリンのほうに大きく張り出し,オキシルシフェリンをがっちりと固定する構造を作っていることがわかった。しかし,それが黄緑色の発光に必要な構造なのかどうか,これだけではわからない。

 

 そこで,イソロイシンをバリンやアラニンに置き換えたルシフェラーゼを作ってオキシルシフェリンを固定する作用を弱めてみた。すると発光色はバリンで橙色,アラニンで赤色に変わった。黄緑色に比べ,橙色や赤色は波長が長くエネルギーが低い。つまり,イソロイシンがオキシルシフェリンを固定する“装置”となることで,化学エネルギーが振動(熱)として失われる部分が減り,発光効率が高まって黄緑色の光が生み出されていることがわかった。

 

究極の発光システム

 1960年代の測定で,ホタルの場合,化学反応によって得たエネルギーが光に変わるエネルギー変換効率が約90%に達することが明らかになった。現在の発光ダイオードの約30%,電球の約10%,ろうそくの約4%などに比べて非常に効率がよく,究極の高効率発光装置として注目を集めた。これまで世界中の研究者がそのメカニズムの解明を目指してきたが,今回の成果は新たな高効率発光システムの開発などにもつながりそうだ。

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