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超高エネルギー宇宙線の謎を解く〜日経サイエンス2006年9月号より

日米共同の宇宙線望遠鏡,来春ユタ州で稼働

 

 宇宙の大きな謎の1つ,超高エネルギー宇宙線の存在と正体を突き止めるため,米国ユタ州の標高1400mの荒野で世界最大級の宇宙線望遠鏡TA(Telescope Array)の建設が進んでいる。日米共同のプロジェクトで,琵琶湖より一回り大きい地表面積760km2に検出器を展開し,宇宙から降り注いでくる粒子を観測する。来春稼働の予定だ。
 宇宙線の主成分は電子や陽子,各種の原子核,ニュートリノなどで,ガンマ線も含まれる。超新星爆発や銀河どうしの衝突など宇宙の高エネルギー現象に伴って生じると考えられているが,詳しくはわかっていない。エネルギーが低いものは常に雨のように降り注いでいるが,1011eV(eVはエネルギーの単位,電子ボルト)になると1m2当たり毎秒1個ほど,1015eVは年に1個しか降ってこない。1018eVになると1km2で年に1個,1020eVでは100km2で年に1個になる。
 このように観測頻度はほぼエネルギーの3乗に反比例して低くなるが,どこまでエネルギーが高い宇宙線が存在するかというと,相反する2つの観測結果が出ている。

 

相反する2つの観測結果

 1つは米国チームが1980年代からユタ州の荒野で実施している観測で(大気に突入した宇宙線が放つ蛍光をとらえる),1020GeV以上の宇宙線は検出されていない。
 この結果は理論とよく一致する。こうした超高エネルギー宇宙線の正体は陽子だ。宇宙空間はビッグバンの名残であるエネルギー10-3eVのマイクロ波背景放射で満たされているが,1020eV以上で疾走する陽子から見ると,特殊相対性理論によってこのマイクロ波は108eVのガンマ線になり,陽子はガンマ線と反応してエネルギーを落とす。だから1020eV以上の宇宙線は一定距離(約1億5000万光年)以遠からは地球に到達できない。それ以内の距離で超高エネルギー宇宙線が発生するのは極めてまれなため,観測にはかからないという理屈だ。
 ところが,東京大学宇宙線研究所が山梨県明野村(現在の北杜市)の約100km2に粒子検出器111台を展開した宇宙線観測装置AGASA(Akeno Giant Air Shower Array)は1020eV以上の宇宙線を13年間で11個も検出した。全天のさまざまな方向からやって来たものだ。特定の点源から飛来したらしき例もあったが,その方向の1億5000万光年以内には,高エネルギー宇宙線を生み出すような天体は見つからない。
 こうした宇宙線はオーソドックスな理論では説明できない。そこで,いくつもの特異な説が提案されている。1つは,宇宙の全質量の約2割を占める暗黒物質(ダークマター)が未発見の非常に重い粒子であって,銀河周辺に集まっているこれらの粒子が崩壊する際に超高エネルギー陽子ができるとする説だ。正体不明の点源については,突発的に起こる大爆発現象「ガンマ線バースト」の源であるという説がある。また,1020eVという超高エネルギーの領域では特殊相対性理論がそもそも破れているのだろうという説もある。

 

ヘリで検出器を設置

 ただ,こうした議論は1020eVを超える宇宙線が本当に存在した場合の話だ。超高エネルギー宇宙線はエネルギーを精密に見積もるのが難しく,観測例も少ないため,誤差も大きい。議論を進めるには,より大面積をカバーして観測データを増やし,同時にエネルギーを高精度で測る必要がある。
 ユタ州の宇宙線望遠鏡は東京大学宇宙線研究所が中心となり,東京工業大学,大阪市立大学,ユタ大学などが共同で建設を進めている。超高エネルギー粒子が大気圏に突入すると窒素や酸素の原子核に衝突し,これらの原子核がさらに他の原子核に衝突するという連鎖によって,膨大な数の粒子がシャワーのように地上に降ってくる。粒子が飛び込んでくると発光する「プラスチックシンチレーター」によって,これをとらえる。
 太陽光発電で電気をまかない,時刻は全地球測位システム(GPS)を利用して計り,無線LANでデータを送る完全自律型だ。ヘリコプターを使って576台を碁盤の目のように配置。AGASAの観測事例をもとに推定すると,1020eV以上の超高エネルギー宇宙線を1年で約10個観測できることになる。
 また,超高エネルギー宇宙線との衝突で生まれた荷電粒子は高速で大気中を走る間に発光するので,この光を光学望遠鏡で精密観測して到来方向とエネルギーを評価する。向きを固定した口径3mの鏡12台からなる観測施設を3つ,粒子検出器を展開した地域を囲むように配置する。
このほか,レーザー光を使って大気の透明度を評価し,加速器から打ち出した電子ビームで大気を発光させて観測装置を較正するなど,測定精度を可能な限り上げる工夫をする。
 南米アルゼンチンの高地でも,これを上回る規模の宇宙線望遠鏡の建設が国際共同で進んでいる。両望遠鏡の稼働によって,宇宙線研究は新たな時代の幕が開くことになる。 

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