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懲りないトンデモ科学新兵器〜日経サイエンス2006年12月号より

科学的に疑問の多い兵器開発に,米国では多額の予算が浪費されている

 

 反物質兵器,心霊テレポーテーション,敵の頭に言葉を送り込む“神の声”マイクロ波,核爆発手榴弾。

 ほとんどの科学者にとって,これらはあまりに現実離れしていて,近い将来の実現など請け負えない。にもかかわらず,米国の政府機関ではこうした「非主流」科学プロジェクトが長年にわたってはびこり,物理法則を知らない政策立案者たちにスーパー兵器に関する誤った願望を抱かせている。

 

まさかのハフニウム爆弾

 例えばいわゆるハフニウム爆弾(アイソマー爆弾,異性核爆弾ともいう)だ。この未来の兵器は「異性核(核異性体)」として知られる原子核が持つ莫大なエネルギーを利用し,手榴弾サイズでTNT火薬キロトン級の爆発力を生むそうな。また,異性核を利用すれば強力なレーザーができるという者もいる。
 異性核を使う兵器のアイデアは数十年前から存在する。基本的な考えは,核異性体(励起状態の陽子を含む原子核)を作り,その崩壊に伴って放出されるエネルギーによって,他の原子の核融合を引き起こせるだろうというもの。長らく注目されなかったが,1998年,ある有力な支持者が歯科用X線装置を使ってハフニウムの異性核からエネルギーを「引き出した」と主張した。
 研究者たちはこれを疑わしい,不完全である,さらにはあり得ないなどと散々に非難した。何しろ,はるかに強力なレーザーを使っても結果を再現できなかったのだ。また,仮にエネルギー放出を誘導できたとしても,ハフニウムは兵器にならないだろうと批判された。放射性物質をまき散らすダーティーボム(汚い爆弾)ができるのがせいぜいだ。しかし,軍部は諦めずにこのアイデアを真面目に検討し続けた。米国防総省はこれまでにハフニウム爆弾だけで1000万ドル以上を投じている。
 ベテランの防衛問題レポーターであるワインバーガー(Sharon Weinberger)は,こうした兵器の開発を追跡調査し,6月に『妄想の兵器:ペンタゴンのエセ科学を見る』という著書を発行した。彼女はハフニウム爆弾に関する軍の営み(現在も続いている)を,「ありもしない脅威の存在を信じたいと思う官僚の願望と深い自己欺瞞の物語」と表現している。存在しない脅威を迎え撃つための空想的な兵器というわけだ。

 

巨大予算と機密の壁

 ワインバーガーらによると,国防総省が非主流テーマを追求する理由の1つは軍事予算の規模に帰着するという。年間5000億ドルに上る予算が無数の研究に割り振られるため,つまらないアイデアが紛れ込みがちだ。もう1つの理由は議会による予算使途指定にある。議員は有権者の便宜になるよう,歳出予算案にいくらかの金額を盛り込む。こうした資金は監査されることがまずないが,疑わしいプロジェクトを存続させるには十分だ。
 国防総省の元兵器査察官で,現在はワシントンにある監視団体・防衛情報センターに所属するコイル(Philip Coyle)は,多くの議員や職員が「技術を理解しておらず」,その無知が「現実離れ」につながるという。
 軍事機密として守られて非主流科学がいっそうはびこるようになるというのは,米科学者連盟(FAS)で「政府秘密に関するプロジェクト」を運営するアフターグッド(Steven Aftergood)だ。2001年9月の同時多発テロ以降は機密に分類される研究が増え,ごく少数の人がそうしたプロジェクトにゴーサインを出し,管理するようになった。「機密が壁となって精査されない。もし開示されたらバカバカしいと思われるような計画も,隠れたままだ」とアフターグッドはいう。
 一例として,アフターグッドはテレポーテーションに関する米空軍による2004年の研究(彼は“スタートレック流輸送”と呼ぶ)を挙げる。空軍は「物理学的に不適と受け止められているもの」に資金提供して批判を浴びたが,それもプロジェクトが公表されて初めて内容が明るみに出たからだという。
 「過程がもっと透明だったら,税金の無駄遣いをせずにすんだかもしれない」。

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