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日本の月探査機,夏打ち上げへ最終準備

アポロ計画以降,最大規模となる月探査計画の準備が日本で進んでいる
任務を担う探査機「セレーネ」は2007年夏,種子島から打ち上げの予定だ

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の筑波宇宙センターで,月周回探査機「セレーネ(SELENE:SELenological & ENgineering Explorer)」の準備が最終段階を迎えている。「月の起源と進化を解明するうえで,セレーネは優れた機能を持っている。世界の研究者が観測データを待ち望んでいる」と滝澤悦貞(たきざわ・よしさだ)プロジェクトマネージャは話す。
 クリーンルームに置かれたセレーネは黒っぽい巨大な記念碑のようにも見える。縦横各2m,高さは約5mと2階建ての家ほどもある。総重量は約3トン。中国とインドも同時期に月探査機を打ち上げる予定だが,中国の探査機は2.4トン,インドは1トン。重量比較だけでなく,観測装置の性能もセレーネがはるかに上回るとみられている。
 セレーネは完全に組み上がり,機能チェックなどが進んでいる。2007年夏,種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げの予定で,打ち上げ費用を含めた探査計画の総額は約550億円。「国内の大学,研究機関の連携プレーでここまで来ることができた」(滝澤プロジェクトマネージャ)。
計画によると,セレーネは地球を2周半した後に月に向かい,月近くで減速してから,月の北極と南極の100km上空を通る極周回円軌道に入る。探査機は同じところを周回するが,月は約27日で1回自転するので,月面をくまなく探査できる。

 

月の起源に迫る

 最大の狙いは月の起源の解明。月の起源に関しては4つの説がある。1つは,月は地球の近くで,地球とほぼ同時期に形成されたとする「双子集積説」。2つめは,月は別の場所で生まれ,地球の引力につかまえられて衛星になったという「捕獲説」。3つめは,月は地球から分裂してできたとする「分裂説」。4つめは,誕生間もない地球に別の大きな天体が衝突し,地球の一部と衝突天体の一部が集まって月になったとする「衝突放出説・巨大衝突説」だ。
 アポロ計画では月の石や塵が持ち帰られたが,同計画は「月へ人を送ること」が主目的だったため,科学的成果は限定的だった。1990年代以降はいくつかの月周回衛星が送り出され,探査機を月面に激突させてその模様を観測する研究も実施された。しかし,搭載機器の性能や探査機の月周回軌道の制約などから,月の成因を特定できるほどの十分なデータは得られていない。月の本当の成因が上の4説とは別にある可能性もゼロではないが,この4説のなかに合致するものがあるなら,セレーネで特定できると考えられている。

 

裏側の重力場を精密測定

 セレーネには15の観測機器が搭載される。これらを使って月表面の元素と鉱物の分布,地形などを詳しく観察し,月を取り巻く粒子の状況や磁場,電離層などを測定する。月面の向こうから地球が昇ってくる「地球の出」などをハイビジョン撮影する計画もある。
 月の内部構造も探る。1つは「レーダーサウンダー」という観測装置で,セレーネが展開したワイヤ状のアンテナから周波数5Hzの電波を月面に向けて放射する。電波は地下5kmくらいまで入り込み,密度などが急激に変化する地層境界面があれば,そこで反射して戻ってくる。これをとらえれば,月内部の断層像が得られる。
 もう1つは探査機本体を月の重力を探るプローブとして使う観測だ。セレーネはおおむね高度100kmを維持して月を周回するが,周りと比べて重いものが埋まっている地域では,その重力に引っ張られて軌道が少し変わる。この軌道変化を精密に測ることで月の重力場マップができ,内部構造を探ることができる。セレーネが月の裏側に回ると地球からは見えなくなってしまうが,セレーネから分離した子衛星で信号を中継することで,表側にいるときと同様に軌道変化をとらえることができる。世界で初めての試みだ。
 観測期間は1年。計画通りに進めば,月に関する知識は飛躍的に増える。「月といえばアポロ(計画)だったが,私たちの探査が成功した暁には,月といえばセレーネといわれるようになるだろう」と佐々木進(ささき・すすむ)プロジェクトサイエンティストは期待を込めて話す。

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