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新原理のカラー表示〜日経サイエンス2007年1月号より

三原色を組み合わせるのではなく,小さな回折格子を変形させる

 

 将来のテレビやコンピューターの画面は人工筋肉(電場によって伸縮するプラスチック)のおかげで本物そっくりの色を出せるようになるかもしれない。今後10年以内に,人工筋肉を利用した小さな“調光プリズム”がディスプレーの画素になる可能性がある。
 テレビのブラウン管や薄型液晶,プラズマディスプレーなど既存の画面は,人間に見える色すべてを忠実に再現することはできない。これらの画素は,それぞれが光の三原色(赤・緑・青)に対応する3つの発光素子からなっていて,三原色をいろいろな明るさで組み合わせて別の色を生み出しているのだが,再現できる範囲には限りがある。

 

伸び縮みする回折格子

 そこで,スイス連邦工科大学(チューリヒ)のアシュバンデン(Manuel Aschwanden)とステマー(Andreas Stemmer)は新しい方法を考案した。多数の反射型回折格子を並べて使う。回折格子は表面に等間隔の細い溝を平行に刻んだ小さな光学素子だ。これらの溝はプリズムと同様に働き,白色光を広げて虹を作る。「直射日光のなかでCDの裏面を傾けると同じ効果が見られる」とアシュバンデンは説明する。「細い線が刻まれた面から虹のようなスペクトルが反射してくる」。
 彼らは実験用に10画素のアレイを作った。各画素に一辺が約75μmの回折格子がついている。まず白色光が回折格子に入射する。回折格子の溝(間隔1μm)は薄い高分子膜の表面に成形されていて,電圧に応じて回折格子が伸び縮みするため,入射光が当たる溝の間隔も広くなったり狭くなったりする。この結果,光の反射角が変化し,反射してくるスペクトルが左右にシフトする。回折格子の前には小さな穴を開けておき,ここを通ってくる光だけを選び出す。電圧を変えると,穴を通って目に入る光の色もさまざまに変わる。
 フルサイズの画面に複合色を出すには,各画素に複数の回折格子を組み込むことになるだろう。茶色など一部の色は白色光を構成するスペクトルの一部をそのまま切り出しただけでは表現できないため,この仕組みが必要となる。

 

パッシブ型表示に最適?

 試作された10画素のシステムは小さすぎて実用にならないが,画素密度は高画質の液晶画面に匹敵するという。ビデオ製品への応用には程遠いものの,次の試作品には400個の回折格子を並べる予定だ。また,現在の試作品の動作電圧は300ボルトで家庭向けには高すぎるが,開発中の新素材を使えば下げられる見込みという。
 「非常に興味深いカラー表示法だ」と評価するのは,スタンフォード大学の電気技術者で光エレクトロニクス企業シリコン・ライト・マシーンズを創業したソルガード(Olav Solgaard)だ。同時に「実用的なディスプレーに仕上げるには非常に難しい問題が残っている」という。例えば画面のコントラストを高めるには「真っ黒な画素」が必要だが,これをどう実現するか。また,回折格子は「光の相当部分を捨てている」わけで,画面の明るさを保つうえで効率がよくないのも問題だ。今回の技法は周辺白色光を反射するパッシブ型ディスプレーに最も有効で,携帯電話の表示などに適していると考えられる。
 いずれにせよ,アシュバンデンらはディスプレー以外への応用も研究している。すでに,人工筋肉膜によって単色光の方向を変える高解像度の顕微鏡を試作した。「光を調節して操ることは光学システムの基礎」とアシュバンデンはいう。「この手法はそのための安価で正確な方法だ」。

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