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虫に学んだ撥水コーティング〜日経サイエンス2007年2月号より

甲虫の一段上をいく機能性表面が登場

 

 知る人ぞ知るアフリカのゴミムシダマシはその羽を使って,カラカラに乾いたナミブ砂漠の空気から水分子を集めて水滴にし,口に導く。最近,マサチューセッツ工科大学の教授2人が同様の機能を持つ物質を作った。ゴミムシダマシの羽よりも一段上をいく。有望商品につながるかもしれない。
 化学工学者コーエン(Robert E. Cohen)と物質科学者のルブナー(Michael F. Rubner)は薄い高分子フィルムの上にシリカの超微粒子を整列させ,水をはじくフッ素系化合物で表面を覆った。その後,シリカ粒子に酸の分子を結合させ,水を強く引き付ける点の列を作った。空港の滑走路の両側に並ぶライトの列のような格好だ。滑走路部分は水をはじく疎水性だから,水分子はそこから流れ出して親水性のスポットに集まる。水滴が大きくなると互いにくっつき合い,直線状の“水路”を下ってフィルムの端に集まる。

 

用途はさまざま

 これだけでも,さまざまな用途が考えられる。コーティングした帆布を砂漠でぶら下げれば,空気中の湿気を容器に集めて飲料水にできるだろう。水滴を集めるのにも使える。服を作れば,汚れが非常につきにくくなる。「白衣をコーティングしてそこにコーヒーをこぼしてみたところ,すぐに水玉になって転がり落ちた」とルブナーはいう。
もっと精巧な製品もできるだろう。コーエンらは表面の“水路”に,有害な化学物質を中和したり細菌を殺したりする化合物を埋め込もうとしている。化学兵器から身を守る軍服ができるほか,病院の内装に使えば除菌が可能だろう。また,医療現場で素早く検査ができる小さなバイオチップも視野に入れている。「DNAやウイルスを検出する多様な化学物質を並べ,一度に多数の病気を調べられるようにしたい」とルブナーは説明する。
 高性能の曇り止めコーティングも考えられる。ゴーグルや自動車のフロントガラス,手術用の内視鏡も,微小な水滴がついたままだと曇ってしまうが,水滴を集めて流してしまえばよい。「ペイントボールゲーム(塗料弾と特殊銃を使う模擬戦闘ゲーム)用に,息が上がっても曇らない安全マスクができないかという問い合わせもある」とルブナーはいう。
 ただし,実験室でできたばかりのこの物質を実用的製品にするには難問が山積している。

 

どうやって洗う?

 この物質を顕微鏡で見ると,疎水性領域は,頂上がフッ素系化合物で覆われた山脈のように見える。はじかれた水分子は谷間の空気に支えられて,峰を越えて転がっていく。ルブナーによると「こうした表面はあまり丈夫とはいえず」,強くこすると取れてしまう恐れがある。このため,峰にガラスのナノ粒子をかぶせて耐久性を高めようとしている。
 洗浄可能な表面を設計するのも課題だ。汚れや危険物質が谷間にたまった場合,研磨剤でこすって落とそうとするとコーティングまではがれてしまうし,液体洗剤はそれ自体がはじかれてしまって役に立たない。「実際に使うとなれば,ありとあらゆるものが表面にくっついてくる」とルブナーはいう。

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