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急浮上!DNAによる水質汚染〜日経サイエンス2007年3月号より

細菌に薬剤耐性をもたらす遺伝子が水系に広がっている
耐性菌の拡大がさらに深刻化する恐れがある

 

 河川から水道の蛇口に至るまで,細菌に薬剤耐性をもたらすDNAによる水質汚染が広がっているようだ。放置すると,有害微生物の薬剤耐性問題がさらに深刻化する恐れがあると専門家は警告する。水質汚染物質の膨大なリストに新たに耐性遺伝子が加わり,効果的な水処理法の開発という難問が浮上した。
 世界保健機関(WHO)の最近の報告によると,米国では毎年200万人以上が薬剤耐性菌に感染し,1万4000人が死亡している。耐性菌が増えたのは人間や家畜に医薬品が広く使われるようになったためだ。これらは95%がそのままので排泄され,環境に漏れ出して抗生物質耐性を助長しているとみられる。

 

飲料水にも耐性遺伝子

 コロラド州立大学の環境工学者プルーデン(Amy Pruden)は抗生物質に注目する代わりに,細菌に薬剤耐性をもたらす遺伝子を環境中に探た。細菌はごくふつうに遺伝子を交換しているほか,死滅した菌から出てきたDNAを取り込むこともあるので,抗生物質耐性遺伝子は薬物が消えた後も長く残って広がり続ける心配がある。
 プルーデンらはコロラド州北部の水を調べ,都市生活や農業活動に関連する2種類の抗生物質,テトラサイクリンとスルホンアミドに対する耐性をもたらす遺伝子を探した。比較的きれいな河川堆積物や浄水場の飲料水,下水処理場の排水,用水路や酪農場の汚水池(牛の排泄物を微生物で分解する)まで,さまざまな場所から細菌を採取し,そのDNA抽出して解析した。
 都市生活や農業活動の影響を直接に受けている水では,比較的きれいな水に比べて抗生物質耐性遺伝子の濃度が数百倍から数千倍も高かった。とはいえ,飲料水を含むすべての試料から耐性遺伝子が見つかった。
 「今回はコロラド州で調査したが,抗生物質耐性遺伝子の存在が同地域に限られているのではないことを強調しておきたい」とプルーデンはいう。調査結果はEnvironmental Science & Technology Briefs誌2006年12月1日特別号に報告された。

 

新興汚染物質が続々

 一般的にはまだ監視対象になっていない新たな汚染物質が数多く見つかるようになった。耐性遺伝子はその最新のものだ。これら新興汚染物質には抗生物質などの医薬品やホルモン,合成洗剤の副産物,芳香剤などの家庭用品がある。「実際には何年も前から環境中に存在していたのだろう。これまではきちんと検出できる分析装置がなかっただけだ」と調査水文学者のコルピン(Dana Kolpin)は説明する。コルピンは米国地質調査所の新興汚染物質プロジェクトのコーディネーターだ。
 これまで水処理場では細菌や有毒金属のほか,硝酸塩やリン酸塩などの栄養分(藻類の過剰繁殖を招いて他の水生生物が壊滅する恐れがある)などは除去してきたが,DNAなどの新興汚染物質は素通りだった。「水処理場は細菌を不活性化する仕組みになっているが,細菌のDNAまで破壊するようにはなっていない」とプルーデンは説明する。
 新興汚染物質を処理するシステムを設計するのは難しい。「ある化合物を例えば塩素やオゾンによる処理で除去するとして,環境に悪影響を及ぼす可能性のある副産物をうっかり作り出すことがあってはならない。問題解決のために別の問題を生み出してはいけない」とコルピンはいう。
 だが,よい解決法が追求されている。例えば高濃度のバクテリアを入れた活性汚泥システムなら,少なくとも100種類の微量汚染物質について60~70%を流水から除去できると,環境工学会社メトカルフ・アンド・エディの廃水処理専門家スティンソン(BeverleyStinson)はいう。「多くの自治体が大金を投じて汚泥システムを改良中だ。最大の目的は栄養分の除去であって新興汚染物質対策ではないが,結果的には一挙両得になるだろう」。
 一方,プルーデンは共同研究者とともに,紫外線と過酸化物を併用して遺伝子を分解する実験的な水処理システムを開発中だ。今年中に試作システムをテストする計画。「ほぼ確実にDNA配列を破壊できるはずだ」とスティンソンはいう。

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