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あなたのゲノムも変化する〜日経サイエンス2008年7月号より

一卵性双生児でさえ「遺伝的に同一」ではない

 

 

 一卵性双生児はよく似ているだろうが,長年考えられてきたのとは違って,DNAが同一ではないことが最近の研究でわかった。さらに,双子が成長するにつれ,遺伝学的な相違は大きくなる。ということは,一卵性双生児のうちどちらが犯人なのかをDNA鑑定で特定できるというわけだが,そんなことよりも,双子に限らずヒトゲノムが実はいかに変わりやすいものであるかのほうが重要だ。
 1個の受精卵が2個に分かれ,それぞれに成長して生まれたのが一卵性双生児だ。同じ細胞に由来するので,指紋など環境要因によって形成される特徴や子宮内の条件によって生じる特徴を除き,身体的に同一であると一般には考えられている。
 ところが一卵性双生児はときに,大きな身体的違いを示す場合がある。例えば一方は糖尿病などの病気になり,他方はならない。こうした相違の背景に遺伝子の変化があるのかどうかを見極めるため,アラバマ大学バーミンガム校の分子遺伝学者デュマンスキー(Jan Dumanski)とブルーダー(Carl Bruder)らは,一方がパーキンソン病や同様の神経疾患を患っている9組の一卵性双生児を調べた。その結果,9組すべてに遺伝子上の相違が見つかった。遺伝子のコピーの数に違いがあったのだ。例えば双子の片方はある遺伝子のコピーが1つ足りなかったり,あるいは余分にあったりした。
 研究チームはその後,外見上は特に目立った違いのない健康な一卵性双生児10組を調べた。驚いたことに,1組の双子では,第2染色体のうち通常は多くの遺伝子を含んでいる部分が,片方だけで欠損していた。また,他の8組にも遺伝子コピー数のばらつきが認められた。「この結果を得たときのショックはとても言葉では表現できない」とブルーダーはいう。研究結果はAmerican Journal of Human Genetics誌3月号に発表された。

 

どの双子も遺伝子コピー数が違う?

 さらにブルーダーは,自分たちが使ったゲノム解析方法はDNA塩基数にして15万程度の比較的大きな違いしか検出できないものだったと指摘する。もっと分解能の高い技法を使えば,どの一卵性双生児にも遺伝子コピー数の違いが見つかるだろうとブルーダーはみる。こうした変化は一般に2本鎖DNAが傷ついたときに生じる。DNA修復の過程で遺伝子がうまく復元されずに欠失したり,余分のコピーが追加されたりする。
 第2染色体の一部が失われていた双子の場合,本人の血液細胞のうちこの欠失が見られたのは約75%にすぎなかった。欠失のない細胞もあることから,この変化は比較的後になってから生じたのだと考えられる。もし胚発生の初期に起こった変化なら,全身の組織に影響が及ぶはずだからだ。ただし,こうした変化がいつ,どの程度の頻度で起こるのかはまだ不明だ。
 一卵性双生児が遺伝的に見て完全に同一ではないにせよ,ほとんどそれに近いとブルーダーは強調する。だから,一卵性双生児を比較して環境の影響から生じる違いを探す研究は今後も有用だ。同様に,双子の間の遺伝的違いを追跡することは病気と関連する遺伝子の特定に大いに役立つだろう。「双子ではない人々を対象に病気の有無を調べるときは,選り分けなければならない違いがほかにも多数あるが,双子の場合はずっと簡単だ」。
 ハーバード大学医学部ダナ・ファーバーがん研究所の細胞遺伝学部長リー(Charles Lee)は,どちらかといえば,双子の研究は環境要因によってゲノムがどう変化するかを調べるという新たな意味を持つようになったという。
 一卵性双生児でさえ一生を通じて遺伝的に異なるものになっていくという事実は,「ゲノムが想像以上に動的なものであり,良くも悪くも常に変化していることを示す」とブルーダーはいう。ある人の細胞はすべて遺伝的に同一なのか,それとも双子の例と同様に個人のなかでも遺伝的な差が生じて,私たちそれぞれがゲノムのわずかに異なる多数の細胞のモザイクになっているのか──ブルーダーらは現在,それを調べている。

薬の効果にも影響?

 通常,遺伝子は両親から1コピーずつ,合わせて2コピー受け継ぐが,人によって特定の遺伝子が1コピーしかなかったり,3コピーある場合もある。これがコピー数変異(CNV)だ。患者の遺伝的な体質にあわせて薬を処方する将来のテーラーメード医療では,これまで主に遺伝子のなかの塩基配列の1つの違い(SNP)に注目して研究が進められてきた。ところがSNPよりもCNVのほうが100倍も頻繁に見られることがわかってきた。CNVは薬を代謝する能力と密接に関係すると考えられている。九州大学の家入一郎(いえいり・いちろう)准教授の調査によると,抗がん剤などの代謝に深くかかわることが知られている酵素の遺伝子でCNVが見つかっており,また,白人や黒人にはないのに,アジア人では比較的高い頻度で見つかっているものもあるという。

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