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つぶれた形の太陽系〜日経サイエンス2008年5月号より

太陽系の南側はつぶれて狭くなっている

 

 

 ボイジャー2号は昨年,30年間宇宙を旅した後,太陽系の内と外を隔てる最初の境界面であるターミネーションショック(末端衝撃波面)を越え,荷電粒子の波に突っ込んだ。姉妹機のボイジャー1号はこれより先にターミネーションショックを越えて北に進んでいるが,これら2機が送ってきた信号からすると,太陽系は片側が“つぶれた”形をしているようだ。太陽風が真っ直ぐ届く距離が,北側に比べ南側は短くなっている。

 

15億キロの違い

 ターミネーションショックとは,太陽風が外宇宙の星間粒子の広大な海にぶつかって屈する地点のこと。太陽風は太陽から秒速400kmの超音速で放射状に吹き出している荷電粒子の流れで,太陽磁場に沿って進む波のなかでは最も速い(ちなみに宇宙でも音波が伝わる場合はあり,太陽系内では秒速50~70kmで進む。だが,音の媒体が非常に希薄で音波の振幅が極端に小さいので,叫び声が聞こえるわけではない)。太陽風はターミネーションショックに近づくと秒速300kmまで減速する。外側の「ヘリオシース」という領域から,宇宙線粒子が太陽風に逆らって流れてくるからだ。
 ターミネーションショックでの太陽風の速度はほぼ半減して秒速150kmに落ち,他の恒星からやってくるプラズマの風と混じり合う。その結果として高エネルギーイオンの波が生じていることを,ボイジャー2号が発見した。この不屈の探査機はターミネーションショックを越えてヘリオシースに入った8月30日から9月1日にかけて,高速荷電粒子の波を5回乗り越えた。速度と密度が落ちた太陽風はそこで渦巻き,太陽が銀河系内を進むのとは逆の向きに尾を引いている。
 以前は,ターミネーションショック外側の太陽風の速度は亜音速だと考えられていたが,「太陽風は予想よりも減速しておらず,これは驚きだった」とカリフォルニア工科大学のストーン(Ed Stone)はいう。
 船首の両側に寄り添って泳ぐイルカのように,2機のボイジャーは黄道を挟んで位置しながら太陽系の進行方向側を進んでいる(左の図)。ボイジャー2号は太陽から84天文単位(AU;1AUは地球と太陽の平均距離)のところでターミネーションショックに当たった。ボイジャー1号がぶつかった94AUに比べると15億kmも近い。この非対称性から,太陽系がなぜか傾いて北側に膨らんでおり,南側のほうが恒星間風に強くさらされていることがわかる。「その理由を知る必要がある」とストーンはいう。

 

予想外に冷たいヘリオシース

 優れた船乗りなら知っているように,風向きは海での船の舵取りに非常に重要だ。米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターにいる磁力計の専門家バーラガ(Leonard Burlaga)は,南側が短いのは恒星間磁場が及ぼす圧力が南側のほうが強いからだと解釈する。同時に,太陽の周期変動によって“帆の張り具合”が微調整されているとみる。
 ボイジャー2号は1号とは違ってプラズマ検出器がまだ作動しており,驚くべき報告がもう1つもたらされた。太陽風粒子がターミネーションショックで減速すると運動エネルギーが熱に変わるはずだと考えられ,「ヘリオシースのイオン温度は100万度以上になると予想していた」のに,「実際は10万~20万度ほどで,予想の1/5~1/10だった」とストーンはいう。宇宙線粒子が太陽風のエネルギーを奪って自分自身の加速に使った可能性が考えられている。バーラガは「イオンが太陽風による磁場変動で跳ね返り,太陽風のエネルギーがイオンに移行する」と説明する。そうした加速がターミネーションショックからヘリオシースにどれだけ入ったところで起こっているのかは,まだわからない。
 その答えは,2機のボイジャーがヘリオシースの旅を続けるうちに明らかになるかもしれない。また,ターミネーションショックを通過してきた粒子を収集する地球周回衛星がこの夏に打ち上げられる予定で,解明が進みそうだ。その一方で,天文学者たちは太陽系のモデルを組み立て直している。「現在の磁気流体力学的モデルでは実態を完全には説明できない」とストーンはいう。

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