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刮目すべき効果〜日経サイエンス2008年5月号より

100万年前に目を失った洞窟魚が1代で視力を回復

 

 

 長い進化の末にできた解剖学的特徴が,たった1世代で覆る場合がある。目の見えない洞窟魚をうまくかけ合わせると,目の見える子どもができる。
 メキシカンテトラ(Astyanax mexicanus)という魚には,洞窟にすむ目の見えない仲間がいる。もともと水面近くに生息していたものが完全な暗闇のなかにすみつき,100万年ほど前に視力を失った。メキシコ北東部の淡水洞窟に生息し,体長は最大で約12cm,用のなくなった目の上には皮膚が成長している。
 この洞窟魚の失明は進化の過程で少なくとも3回,独立に起こり,各回とも数カ所の遺伝子部位の変異が原因だったことがわかっている。そして,失明をもたらした変異のうち一部は,存在が知られる29の洞窟魚集団の間で異なっていた。変異がこのように多様なので,洞窟魚の異なる系統をかけ合わせれば目の見える個体ができるかもしれないと考えられた。片方で欠損している遺伝子が他方の遺伝子で補われる可能性があるからだ。
 ニューヨーク大学の進化生物学者ボロウスキー(Richard Borowsky)らは,異なる洞窟魚集団をかけ合わせた子孫のなかに,通常よりもサイズは小さいがちゃんとした目を持つものが生まれることを発見し,Current Biology誌1月8日号に報告した。動く縞模様を目で追うので,実際に見えている。ボロウスキーはさらに,距離的に離れた洞窟にすんでいた魚をかけ合わせたときほど,視力を持つ子孫の生まれる確率が高くなったという。
 生息場所が離れている系統ほど関係が薄く,失明の原因となっている遺伝子の重複も少ないという考え方を裏づける。洞窟魚の失明原因となった変異を特定すれば,ヒトの目の発達や失明にも光を当てられそうだ。

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