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外来魚は経済を追って〜日経サイエンス2008年8月号より

GDPの高い地域は外来魚の侵入が大きい

 

 

 海運貿易の発展に伴い,世界中の水路に外来魚が入り込み,在来種を絶滅に追い込むようになった。漁業が崩壊し,外来魚の侵入を食い止めるために各国政府は巨費を費やしている。最近の研究によると,外来魚の繁栄は生態学よりも経済学的な原因による。この研究結果は生態学者にとっては驚きだった。
 生態学者たちは長い間,どんな条件なら在来種が外来種の侵入に対して脆弱になるかを議論してきた。1つの仮説は50年前に英国の生態学者エルトン(Charles Elton)が提唱した「生物耐性」だ。強固な生態系には非常に多くの在来種がいて,よそ者が入り込む余地がないのだと考えた。侵入者の前に“満室”のサインが立ちふさがるというわけだ。
 だが近年,これに対抗する「生物許容」という仮説が現れた。健全な生息環境は在来種も外来種も等しく引き寄せるという説だ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のレバイン(Jonathan Levine)は,「多くのお客で繁盛しているレストランは料理がおいしい証拠だと考えられて,ますます客が集まるのと同じ」と説明する。

 

6つのホットスポット

 PLoS Biology誌2月号に報告されたある研究は,この長きにわたる議論を混乱させることになった。地球の陸地の80%に相当する1055の河川集水域に関するデータを解析した結果,生息する淡水魚の25%以上が外来種であるような「世界的侵入ホットスポット」が6つ見つかった。それぞれ,西ヨーロッパ,北米・中米の太平洋岸,南米南部,オーストラリアおよびニュージーランド,南アフリカ,中央ユーラシアの広域にわたっている。
 論文の主執筆者である仏ポール・サバチエ大学のルプリュール(Fabien Leprieur)は,これら侵入種の数が多い場所は,国内総生産(GDP)が大きく,都市開発が進み,人口密度が高い場所と一致するという。おそらく最大の問題は,これらホットスポットでは絶滅の危機に瀕している在来種の魚の種数も非常に多いことだ。
 少なくともこれら河川流域全体の規模で見ると,ルプリュールの発見は生物耐性と生物許容の仮説のどちらとも合致しないとレバインはいう。人間活動によって拡散した侵入種は明らかに,どんな生態系にも定着してしまうのだ。レバインは国際貿易によって外来植物がどう広がるかを研究している。
 ルプリュールも「外来淡水魚の個体密度を抑制する自然の営みが,人間活動によって弱まっているのは驚きだ」という。ただし,人間が外来魚の繁栄を助けているのは想像に難くないともいう。経済活動が活発な国ほど国際海運が盛んで,バラスト水に紛れ込んだ魚を運んで来てしまうし,水産養殖やペット産業の規模が大きく,そこから外来魚が環境中に逃げ出す例も多い。また,経済発展に伴いダムや橋など環境を乱すものが多くでき,外来種が広がりやすくなっている可能性がある。

 

これ以上の混乱を避けよ

 米海洋大気局(NOAA)の生態学者で五大湖を研究するスタートバント(Rochelle Sturtevant)は,ルプリュールの研究成果が発展途上国への警鐘となるよう期待している。途上国はこれから世界市場に参入し,経済活動によって自国の比較的無傷の生態系を脅かしてしまう恐れがある。
 だが残念ながら,同論文の結論は概略を述べたもので,具体的な対策づくりの助けにはなりにくいとスタートバントは指摘する。より詳しい調査研究を行えば,外来種の拡散に一役買っているような生物学的プロセスが見つかるかもしれない。さらに,「GDP」や「都市化」という言葉に「外来種侵入を招く人間活動」という意味合いを持たせるよう,社会意識を変えていくべきだという。

 

五大湖では

 米海洋大気局の生態学者で五大湖を研究しているスタートバントは,大多数の外来種は何の問題も起こさないという。「五大湖にいる185の外来種のうち,経済と環境に長期的に大きな影響を与えたのは10%にすぎないだろう」と説明する。とはいえ,その影響そのものは甚大だ。例えばヤツメウナギ(下の写真)は運河を通って五大湖に入り込み,1950年代後半にはレークトラウト(マスの仲間)を絶滅寸前に追いつめた。現在,少なくとも25種の外来魚が湖を泳ぎ回っており,その結果いくつかの在来種が減っている。

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