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数を数える動物たち〜日経サイエンス2009年11月号より

意外にも,多くの動物が計数能力を生まれつき備えているようだ

 

 100年ほど前の「賢馬ハンス」以来,科学者は動物に数学の能力があるという主張には懐疑的だ。この馬はヨーロッパの人々の前で算術などの知的作業を実演して大評判になったのだが,実は飼い主の無意識の動きを手がかりにしていた。最近では“天才オウム”のアレックスが6まで数え,足し算・引き算ができたとされるが,こうした例は特別なケースか条件づけの結果だと考えられている。
 ところが最近の研究で,いろいろな動物が数を数えている例が新たにわかり,数学の能力がこれまで考えられていたよりも生物に基本的なものである可能性が示されている。ある条件下では,サルが大学生を上回る能力を示す場合もあるようだ。

 

小鳥もヒヨコも

 ニュージーランドにあるウェリントン大学のバーンズ(Kevin C. Burns)らは,倒木に複数の穴を開け,穴ごとに違う数のゴミムシダマシの幼虫を入れて,野生のニュージーランドコマヒタキという鳥から見えるよう野生生物保護区のなかに置いて観察した結果を昨年夏のProceedings of the Royal Society B誌に発表した。鳥たちは虫の数が最も多い穴に群がっただけでなく,鳥が目を離した隙にバーンズが一部の虫を取り除くと,2倍の時間をかけて穴を検分し,いなくなった虫を探した。
 「この鳥たちはおそらく,小さな数(3とか4)を区別する能力を生まれつき持っているのだろう」とバーンズは考えている。「そうした数の感覚を日常的に使っているので,試行錯誤しながら最終的には12くらいまでの数を識別できるようになる」ともいう。
 さらに最近では,ヒヨコが算数の能力を持っていることをイタリアのトレント大学のルガニ(Rosa Rugani)の研究チームが実証し,同誌4月号に報告した。生まれたばかりのヒヨコを5個のまったく同じ形の物体と一緒に育て,それらの物体が親であるとヒヨコが考えるよう刷り込みした。その後,物体の数を減らして,例えば2個のセットと3個のセットにして衝立の後ろに隠したところ,ヒヨコは数が多いほうを探してそちらに向かっていった。自分のお母さんは2個ではなく3個のほうに似ていると感じたようだ。また,物体のサイズをいろいろ変えて実験し,ヒヨコが単に物体の占めるスペースの大小によって判別しているのではなく個数を見極めていることを確かめた。

 

大学生より素早いサル

 ロチェスター大学のキャントロン(Jessica Cantlon)は過去5年間の一連の実験で,アカゲザルの計算能力が人間に匹敵しうることを示している。色・形・大きさがすべて同じ物体を複数個集めて組みにした2セットのうち,個数の少ないほうを選ぶ能力があることを発見した。さらに色や形,大きさを変えても,正確さや反応速度は変わらなかった。
 正解するとジュースのご褒美がもらえる実験で,あるサルは大学生に比べて正確さでは10~20%劣るものの,反応の素早さは上回った。「アカゲザルはたまにミスしても気にする様子はなかった」とキャントロンはいう。「ミスはさっさとやり過ごし,次の問題に取り組んでもっとジュースを貰おうとする。これに対し大学生は間違いを犯す不安が頭から抜けない」。
 また,デューク大学のブラノン(Elizabeth Brannon)もアカゲザルを使って実験し,耳で聞いた音の回数と同じ個数のものを,目で見たもののなかから選べることを示した。聴覚と視覚という異種感覚にまたがって,数合わせができるわけだ。さらに引き算の能力も試した。複数個の物体を何組か見せた後,いったん覆いをかけて隠し,何個かを取り除くところを見せる。覆いを外すと,サルは個数を減らされたセットを偶然よりも高い確率で正しく選び出した。さらに,数としてのゼロの概念を把握しているわけではないものの,1や2よりも少ないことは理解しているという。Journal of Experimental Psychology: General誌5月号に報告した。

 

無脊椎動物にも学習能

 ブラノンは,動物は言語的な数感覚は持っていない(頭のなかで「1,2,3」と数えているのではない)が,数字に頼らず物体の集合を寄せ合わせることで大雑把な計算はでき,その能力は生まれつき備わっていると考えている。この能力は「縄張りを持つ動物が大きさの異なる敵対グループに近づいたり,草食動物がそこでこれまでに食べた草の量とそれに費やした時間から,新しい場所に移動すべきかどうかを決断したりする必要性から進化したのではないか」とブラノンはみる。
 30年にわたるオウムのアレックスの研究で知られるマサチューセッツ工科大学のペパーバーグ(Irene Pepperberg)は,小さな量ならハチでさえ学習によって区別可能になるという。「ある程度の数感覚は無脊椎動物でも学習できるようで,こうした学習を支える何らかの神経構造があるのだろう」という。
 動物に数感覚をもたらしている生物学的基礎の理解が進めば,幼児教育に関係してくるかもしれない。ブラノンによると,ふつう4~5歳から教え始める算数を,もっと低年齢から教えられる可能性もあるという。

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