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チップ上のゴルジ体〜日経サイエンス2009年12月号より

人工の細胞内小器官が初めて作られた

 

 近年,染色体やリボソームといった細胞の主要部品の“合成版”が作られるようになった。最近では,ヒト細胞の「細胞内小器官」を模擬した初の実働プロトタイプが開発された。人工のゴルジ体だ。
 ゴルジ体は袋状の膜構造がホットケーキのように積み重なっており,タンパク質が安定化して機能を発揮するよう化学的に微修正するほか,複合糖質の生成を助けている。しかし詳しいことはほとんどわかっていない。
 レンセラー工科大学の化学者リンハルト(Robert Linhardt)は「ゴルジ体は流動的で形が常に変わるため,つかみどころがない」と説明する。「また,重なった袋構造の間を小胞が流れていく向きはわかるものの,小胞が何を運んでいるのかは不明だ」。
 ゴルジ体の働きを詳しく分析しようと,リンハルトらはその合成版といえる1mm四方のオンチップラボを作った。ゴルジ体のなかで生体分子に化学変化を起こしているいくつかの酵素の作業工程を模擬した設計だ。
 磁性粒子にサンプル分子をくっつけ,これを体積わずか3000億分の1リットルの水滴に分散させたうえでチップ上に置く。分子を持って行きたい場所を帯電させると,水滴が引き付けられ,そこへ向かって流れる。目的の場所の下には磁性粒子よりも大きな磁石があって,生体分子がついた磁性粒子がそのまま引き止められる。このようにして水滴を動かし,酵素や糖などが入った反応室の間を行き来させることができる。
 抗凝血剤として広く使われている「ヘパリン」の前駆体を用いた実験で,この装置が前駆体を素早く効率的に修飾して,抗凝血作用を発揮する分子に変えられることを確かめた。詳しくはJournal of the American Chemical Society誌8月12日号に掲載。この人工ゴルジ体を使えば,動物の組織を使う従来法よりも速く安全にヘパリンを製造できる可能性があるという。

 

生命誕生の謎に迫る

 過去数十年,個々の部品を組み上げて細胞を作り上げる実験が続いてきた。合成細胞膜のカプセルに包まれた単純な人工細胞が一例で,地球上で生命がどのように生まれたのかを探る試みだ。1997年には人工のヒト染色体が作られた。そして,今年になってハーバード大学のチャーチ(George Church)らは細胞に似た条件下で機能する人工リボソームを開発した(28ページ「生命の起源」参照)。リボソームはDNAの遺伝情報に基づいてタンパク質を作っている細胞内小器官だ。
 リンハルトらは人工「小胞体」の作製も計画している。小胞体の膜には多数のリボソームが付着しており,ここでタンパク質の合成と折り畳みが生じている。
 「人工のゴルジ体と小胞体を統合したものも考えている」とリンハルトはいう。「いまのところ細胞の部分部分を電子チップ上に作っている」が,より複雑なシステムを目指している。

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