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モノポールの存在を確認?〜日経サイエンス2010年1月号より

特殊な材料のなかでは磁極のNとSが分離して振る舞う

 

 磁石は公平の並外れたお手本だ。どのN極にも必ず対応するS極が伴っていて,バランスを取っている。1本の棒磁石を2つに割ったら2本の棒磁石になり,それぞれにN極とS極ができる。過去数十年,科学者たちは例外を探してきた。磁気単極子(モノポール)だ。電子が電荷を運ぶように,磁荷(磁気の素量)を担う粒子で,NまたはSのどちらかの磁荷を帯びて自由に移動する。陰と陽,NとSが束縛を解かれる……。
 電子のような素粒子ではないものの,そうした磁気単極子が実在する実験的証拠を,2つの研究グループが示した。1つはフランスのグルノーブルにあるラウエ・ランジュバン研究所のフェネル(Tom Fennell)らのグループ,もう1つはベルリンにあるヘルムホルツ材料エネルギー研究センターのモリス(Jonathan Morris)のグループだ。
 この磁気単極子は素粒子ではなく,いわゆる「スピンアイス」の内部に束縛を解かれた磁気成分として存在する。スピンアイスは人工的に作られた材料で,磁気的性質が氷と似ているのでこの名がついた。フランスの研究チームはチタン酸ホルミウムのスピンアイスを,ドイツのチームはチタン酸ジスプロシウムのスピンアイスを使って実験した。

 

スピンアイス中で磁極が分離

 モリスのチームに所属する英オックスフォード大学の物理学者カステルノボ(Claudio Castelnovo)は,これらのスピンアイスでは秩序と自由度が特異なものになり,磁極が分離しやすくなるという。小さな磁気成分はスピンアイスの内部で,互いの頭と尻尾をつなげて糸をなすように並ぶ。テーブルの上で多数の棒磁石が連なって鎖となっているが,それぞれの棒磁石はいろいろな方向を向いている状態に似ている。純度の高いサンプルを非常な低温にした場合,こうした糸は閉じた環を作る。
 実験ではここで温度を上げて,系を少し刺激した。温度上昇で磁気成分が励起し,糸に欠陥が生じたとカステルノボは説明する。棒磁石のたとえでいうと,磁石の1つが反転し,鎖の頭から尻尾に至る連続性が途中で破れたようなものだ。
 この欠陥の端では,一端はNとN,他端ではSとSが重なる。この磁荷の集中は糸に沿って自由に動くことができる。ということで,ほら,磁気単極子のでき上がりだ。研究チームはスピンアイスが中性子を散乱する様子をもとに,これを観測したと結論づけた。
 「スピンアイスのよいところは,こうした低温相で残っている無秩序さによって,これらの2点が独立に振る舞うことだ。ただし2点の片方はN,もう一方はSなので,磁気的に引きつけ合うという事実は変わらない」とカステルノボはいう。「しかし,それ以外の点では自由に動き回る」。
 もちろん,この方法では,Sを作らずにNの磁気単極子だけを作ることはできない。NとSが分離している点が重要だ。「NとSの磁気単極子が常に対として現れるが,両者が特別な関係を持つ必然性はない」という。

 

似て非なるもの

 しかし,磁気単極子探しの研究動向を概説した論文を2006年にまとめたオクラホマ大学の物理学者ミルトン(Kimball Milton)は納得していない。「私にとっての磁気単極子は点粒子を意味するが,これらの研究が単極子といっているものは違う。あるレベルで磁気単極子のように見える励起ではあるが,本当の磁気単極子とは根本的に異なる別物だ」という。
 またミルトンは,今回の研究者たちがスピンアイス内の磁気の鎖を「ディラックの紐」であると説明したのは「完全な誤り」だと主張する。ディラックの紐とは,1930年に英国の物理学者ディラック(Paul Dirac)が想定した目に見えない仮想的な鎖で,一端に磁気単極子がくっついているものだ。
 ミルトンはスピンアイス内の磁気の鎖は実際に観測可能だし,極性の異なる2つの“磁気単極子もどき”の間の磁束を運んでいるにすぎないのだから,ディラックの定義に合わないと感じている。「正真正銘の磁気単極子が存在するなら,それは孤立した粒子であって,紐は無限のかなたへと延びているはずだ」という。
 今回の発見は物性物理学の分野で重要な意味を持つので,「けなすつもりは毛頭ない」とミルトンはいう。しかし「基本的な観点からはあまり重要ではない」。

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