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標準は“炭素惑星”?〜日経サイエンス2010年3月号より

太陽系外の地球型惑星は黒鉛とダイヤモンドでできているのかも

 

 天文学には風変わりなものがたくさん登場するが,天文学者がいま最も発見を望んでいるのは風変わりではないもの,つまり地球に似た惑星だ。これまで見つかった太陽系外惑星のほとんどは巨大惑星だが,太陽に似た星の周りを回る地球型惑星を見つけたい。昨年3月に打ち上げられた系外惑星探査機ケプラーはその探索観測に最適で,今年は“系外地球”発見の年になると期待されている。 
 しかし,初期に見つかった系外惑星が天文学者の予想とかけ離れたものだったように,地球型の系外惑星もかなり風変わりなものなのかもしれない。 
 近年の理論研究で,地球と同程度の質量の系外惑星が巨大な水玉だったり,窒素のボールだったり,鉄の塊だったりする可能性が指摘されるようになった。お好みの元素や化合物の名前を挙げれば,それでできた惑星をどこかの理論家がすでに検討ずみ──といってよいほどだ。 
 どんな惑星がありうるかは,主に酸素に対する炭素の存在比率による。炭素と酸素は水素とヘリウムに次いで宇宙でありふれた元素であり,初期の惑星系では対になって一酸化炭素を形成する。わずかに量が上回ったほうが,惑星の化学組成を支配することになる。

 

太陽系では酸素が優勢だが…

 太陽系では酸素が優勢だ。私たちは生命の基本である炭素によって地球が特徴づけられていると考えがちだが,実は炭素は構成成分としては脇役だ。太陽系の地球型惑星は酸素が豊富なケイ酸塩鉱物でできている。太陽系外縁部は,やはり酸素を多く含む化合物である水が豊富だ。 
 炭素が酸素に“負けた”理由が,最近の研究によって詳しく示された。アリゾナ大学と惑星科学研究所(PSI)に所属するボンド(Jade Bond),アリゾナ大学のローレッタ(Dante Lauretta),惑星科学研究所のオブライエン(David O’Brien)は,太陽系の形成につれて元素がどのように分布したかをシミュレートした。その結果,原始惑星円盤のなかでは炭素がガス状態のままであり,これらが最終的には遠くの宇宙空間へと吹き飛ばされたことを発見した。
 生まれかけの地球には炭素がまったく存在せず,私たちの身体にある炭素は後に地球に衝突した小惑星や彗星によってもたらされたに違いないという。これらの小惑星や彗星は地球とは違って炭素を取り込めるような状況下で生まれたと考えられる。

 

一般には炭素が優勢

 2005年にプリンストン大学にいたクシュナー(Marc Kuchner)とワシントン・カーネギー協会のシーガー(Sara Seager)は,もし炭素と酸素のバランスが逆のほうへ傾いていたら地球はまるで違っていただろうと論じた。地球はケイ酸塩ではなく,炭素を基本にした炭化ケイ素などの化合物,または純粋な炭素でできていたはずだ。地殻は主にグラファイト(黒鉛)で,地下数kmでは高圧によってダイヤモンドなどの結晶による硬い殻ができていただろう。水の氷ではなく,一酸化炭素やメタンの氷が存在し,液体の水の代わりにタールの海が広がっていただろう。 
 銀河系にはそうした天体があふれている可能性がある。ボンドが引用した観測調査によると,惑星を持つ平均的な恒星は太陽に比べて酸素に対する炭素の比率が高く,ボンドらのシミュレーションでは最も炭素に富む系では炭素でできた惑星が生まれると予想される。「太陽系とは成分が大きく異なるため,地球型惑星といっても地球とはまるで違う化学組成になる」とボンドはいう。 
 だが一方で,太陽は同クラスの平均的な恒星(主系列星)と区別がつかないことが別の天文観測からわかっている。ケプラー探査機はこの問題の解決に役立つ可能性がある。系外惑星に関して質量や半径を推測できるわずかな情報さえ手に入れば,おおよその化学組成を十分に判定できるからだ。 
 白色矮星や中性子星の周辺など,より特殊な環境では,“炭素地球”がふつうに見られるかもしれない。銀河中心など重元素に富む領域では一般に,酸素に対する炭素の存在比率が高い。星々は重元素を作り続けるので,このバランスは時とともにさらに炭素優位へと傾いていく。
 天文学の発見は,何がありふれたもので何が特殊なものであるかという通念をひっくり返す。銀河の大部分は物質ではなく実は暗黒物質(ダークマター)だ。ほとんどの恒星は私たちの太陽よりも暗くて赤い。そして他の地球型惑星は地球に特に似てはいないらしい。宇宙の標準から外れ,風変わりと呼ぶにふさわしいものがあるなら,それは私たちだ。

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