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消えた巨獣の謎〜日経サイエンス2010年4月号より

マンモス絶滅は人間がアメリカ大陸に出現する前だったのか
それとも同時期,あるいは後だったのか? 

 

 南北アメリカ大陸にまだ人類がいなかったころ,マンモスや剣歯虎,オオナマケモノなどの巨獣が生息していた。現在のアフリカが誇る大型動物相も顔負けの豪華キャストだ。その絶滅の原因と時期については諸説あるが,昨秋に発表された一見矛盾する複数の発見が,この謎に新たな味つけを加えた。
 ある有力な説は,絶滅の原因を人間だとみる。約1万3500年前にアメリカ大陸に入ってきた明らかな証拠が残っている「クロヴィス人」だ。この時期が大型動物消滅の時期と一致することから,クロヴィス人が大型動物を狩り尽くしたか,致命的な感染症を広めて絶滅に追い込んだとみる。一方,別の説によると気候が原因だ。「ヤンガードリアス期」として知られる1300年間の寒冷期を含め寒冷期と温暖期を2回繰り返しており,そうした気候急変に大型動物が適応できなかった可能性がある。

 

前・中・後──3つの結果

 ウィスコンシン大学マディソン校の古生態学者ギル(Jacquelyn Gill)らは絶滅の時期を突き止めるべく,インディアナ州の湖の底に眠る古代の堆積物から糞の化石や花粉,木炭を採取して調べた。大型草食動物の糞はスポロミエラ(Sporomiella)という真菌を含んでいて,その量からマンモスなどの大型動物が当時どれだけ生息していたかを推定できる。花粉からは植物の量,木炭からは山火事の発生回数がわかる。
 同グループはScience誌11月20日号に,植物相の広がりと山火事は草食動物が消えたことと関連していると報告した。大型草食動物がいなくなり,ブラックアッシュやニレ,テツボクなどの広葉樹が広がったが,やがて枯れ枝などが地表に積もって山火事が劇的に増えた。ギルらはこれらを考え合わせ,大型動物が消えたのは1万4800年前から1万3700年前だと結論づけた。クロヴィス人の出現よりも最大で1300年も昔だ。
 だが別の研究によると,絶滅はクロヴィス人がいた時代に起こったと考えられる。ジョージ・ワシントン大学の動物考古学者フェイス(J. Tyler Faith)とワイオミング大学の考古学者サロベル(Todd Surovell)は有史以前の北アメリカにいた31属(属は生物分類における種の上位グループ)にわたる哺乳動物の骨について,放射性炭素年代測定を行った。この結果,すべてが1万3800年前から1万1400年前の間に同時に絶滅したらしいことがわかった。米国科学アカデミー紀要オンライン版11月23日号に掲載。
 ところが,永久凍土から回収された古代のDNAを手がかりにすると,大型動物はアメリカ大陸に人類が現れてから数千年後まで生きていたことになる。アラスカ中央部の永久凍土が春の雪解け期にゆるみ,生物のDNAを含んだ水が割れ目を満たし,冬になると再び凍結する。こうした遺伝子は,骨の化石としては残っていない生物集団の痕跡となる。
 コペンハーゲン大学の進化生物学者ウィラースレフ(Eske Willerslev)らがこうしたミトコンドリアDNAを調べたところ,マンモスとウマが少なくとも1万500年前まで生息していたと考えられる(ウマは実はアメリカ大陸が原産で,いったん絶滅した後にヨーロッパ人が改めて持ち込んだ)。この発見は米国科学アカデミー紀要オンライン版12月14日号に掲載された。

 

“群盲マンモスを評す”?

 これら3つの論文は互いに矛盾しているように見えるが,それぞれ絶滅の始まりと途中,そして終わりをとらえたスナップショットなのかもしれない。「“群盲象を評す”ということわざがあるが,今回の3論文が矛盾して見えるとしたら,同じ理由による。3人の盲人が象,いやこの場合はマンモスか,その別々の部分を触ってそれぞれ正しく述べているのだが,全体像はとらえられていないのだ」と豪ジェームズ・クック大学の生態学者ジョンソン(Christopher Johnson)はいう。
 ジョンソンによると,真菌を手がかりにすると草食動物の個体数がいつ減り始めたかがよくわかるが,絶滅が完了した正確な時期はわからない。少数の草食動物が広い地域に散らばって生き残っていた場合は特に難しい。一方,DNAを手がかりにすると,絶滅の後期まで生き残っていた動物の存在を検出できる。「最後の1頭が生きていたのと非常に近い時期がわかるだろう」。
 その中間の時代のものだと判定された骨の化石は,多くの種が同時に絶滅経過をたどったことを示している。これらの化石は,当時はローレンシア氷床やコルディレラ氷床によってアラスカとは隔てられていたアメリカ大陸で発見されたもので,アラスカで採取したDNAによる分析とは異なる結果を示してもおかしくはないとフェイスは指摘する。

 

現在につながる研究

 では何が個体数減少を招いたのか? ウィラースレフと共同研究しているアメリカ自然史博物館のマクフィー(Ross MacPhee)は,結論はまだ出ていないという。またジョンソンは,クロヴィス人以前にアメリカ大陸に人類がいた証拠を考古学者たちが発掘中だと指摘し,その人々が大型動物を狩りすぎたのだとみる。クロヴィス人のものとされる溝の切られた立派なやり先は,大型動物が減って狩りが難しくなったために開発されたものかもしれないとジョンソンは付け加える。
 絶滅の原因を特定できなくても,大型動物減少の研究は「現代に直接関係する」とギルはいう。「私たちはいま,原因がわかっている大絶滅の最中にある。その原因とは私たち人類だ。そして最も脅かされているのが大型動物だ」と指摘する。アフリカがかつてのアメリカ大陸の二の舞を踏むような事態は,誰も望んでいない。

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