News Scan

ブラックホールを生んだ暗黒物質〜日経サイエンス2010年5月号より

初期宇宙に巨大ブラックホールが存在したのはなぜか──
暗黒物質によってこの謎が解けるかもしれない 

 

 多くの銀河の中心には質量が太陽の10億倍以上もあるブラックホールがあって,これが銀河の回転と発達を促している。こうした超大質量ブラックホールはビッグバンから約140億年たった現在では一般的だが,初期の宇宙では珍しかった,というか,少なくともまれなはずだと考えられていた。 
 だから,ビッグバンから10億年足らずの若い宇宙に超大質量ブラックホールがすでに存在していたという証拠に,科学者たちは頭を抱えている。星の進化に関する現在の理論からすると,そうした巨大ブラックホールが発達するにはもっと長い時間がかかるはずだからだ。しかし,この謎が“謎の物質”によって解けるかもしれない。暗黒物質(ダークマター)だ。

 

暗黒物質で輝く“ダークスター”

 初期の超大質量ブラックホールに関するこの謎が浮上したのは,スローン・デジタル・スカイ・サーベイが数個のブラックホールを発見した2003年のこと。従来の考え方では,恒星が最初に誕生したのは宇宙誕生の約2億年後だが,当時の宇宙の状態を考えると,それらが作り出すブラックホールの質量は太陽の100倍ほどでしかない。それらが合体して成長するには非常に長い時間がかかるはずで,スローン・デジタル・スカイ・サーベイが見つけた太陽質量の何億倍もの古いブラックホールには説明がつかない。 
 暗黒物質によってこの難問が解けるかもしれないというのは,ミシガン大学アナーバー校の理論物理学者フリーズ(Katherine Freese)らだ。 
 暗黒物質は目には見えないが,発揮する重力によってその存在が示され,宇宙の物質の少なくとも80%(そして全宇宙の物質とエネルギーの約1/4)を構成する。だが,暗黒物質が何でできているのか,はっきりしていない。有力候補の1つはニュートラリーノという相互作用の弱い重い粒子だ。ニュートラリーノどうしが出合うと消滅する場合があり,その際に熱とガンマ線,ニュートリノ,陽電子や反陽子といった反物質粒子が生じる。 
 フリーズらは,宇宙の年齢がまだ8000万歳から1億歳だったころ,原始ガス雲が冷えて収縮を始めたころに,その重力がニュートラリーノを引き寄せて互いに消滅させ,そこで解放されたエネルギーが最初の星を生み出した可能性を計算で示した。これらの天体をフリーズらは「暗黒星(ダークスター)」と名づけた。通常の恒星が核反応エネルギーで輝くのに対し,これらの星は暗黒物質がエネルギー源になっているからだ。 
 そして,暗黒星は通常の恒星よりもはるかに大きかった可能性がある。通常の星は核融合が起こるような高密度だが,暗黒星はその必要がないので,ずっとふわふわしていて,最大で太陽の直径の20万倍に達するものもあっただろう。 
 また,暗黒星の表面温度は比較的低いため,太陽質量の1000倍に達する大質量に成長できたと考えられる。これに対し現在の恒星は重いものでも太陽質量の約150倍が限度だ。

 

大質量の暗黒星がブラックホールに

 フリーズらのその後の計算によると,暗黒星は燃料を使い果たして崩壊するまでに,太陽質量の10万倍以上に達した可能性がある。ニュートラリーノがどの程度の頻度で暗黒星に流れ込んで原子に捕捉されるかを解析し,暗黒物質粒子が当初考えられたよりもずっと長期にわたって暗黒星の成長を促進しうると結論づけた。 
 超大質量の暗黒星が暗黒物質を使い果たすと,収縮して核融合が始まり,その後は通常の恒星として100万年ほど輝いたと考えられる。これらの星は超新星爆発を起こさず(爆発するには「あまりに大きすぎる」とフリーズはいう),同質量のブラックホールへとそのまま重力崩壊した。 
 そうしたブラックホールがいくつか合体し,ビッグバンから10億年以内に大質量ブラックホールができた可能性がある。

 

見つかるか“ふわふわ巨星”

 超大質量の暗黒星は太陽よりも最大で10億倍も明るかっただろうが,太陽と同じ温度の黄色い光を放っていた。2014年打ち上げ予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって遠くの宇宙を観測すれば,そうしたふわふわした巨星が見つかるだろうとフリーズは期待している。 
 ただし,暗黒星が現在も生まれている可能性はなさそうだ。現在の暗黒物質の平均密度は,宇宙で暗黒星が生まれていた昔,宇宙のサイズがずっと小さかったころに比べると1/8000に薄まっているからだ。 
 一方,暗黒星の実在を疑う専門家もいる。ミシガン州立大学の宇宙物理学者オシェイ(Brian O’Shea)は,暗黒星の考えは暗黒物質の特性に関してあまりに多くを仮定しすぎているという。例えば暗黒物質がニュートラリーノではなくてアキシオンという別の粒子だったらどうだろう。アキシオンは自己消滅しないので,暗黒星も生まれない。 
 それでも,テキサス大学オースティン校の宇宙物理学者シャピロ(Paul R. Shapiro)は暗黒星を「合理的な暗黒物質モデルによる合理的な帰結だ」と考える。そして,暗黒星が実際に見つかれば,初期ブラックホールに関する謎だけでなく,暗黒物質が何でできているのかについてヒントが得られることになる。

サイト内の関連記事を読む