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映像も送れる量子暗号〜日経サイエンス2010年7月号より

東芝欧州研究所が毎秒1メガビットの高速量子暗号通信実験に成功

 

 こっそり中を見られる心配がない量子暗号通信は,完全な安全性が保証されるが,速度と距離の制約が実用化のネックになっている。このうち速度については,明るい見通しが得られてきた。英国にある東芝欧州研究所が,量子暗号の暗号鍵を毎秒1メガビットの速さで50km伝送する実験に成功したとApplied Physics Letters誌4月19日号に報告。これなら量子暗号で秘密の映像を送ることも不可能ではない。
 量子暗号では,情報の暗号化と解読に使う「暗号鍵」のデータを,光子の量子状態に符号化して送信する。通信の途中で誰かが鍵を盗み見ると状態が変化し,痕跡が残る。送信した鍵のデータを送受信者が調べて盗聴がなかったことを確認し,この鍵で本来の情報を暗号化して送れば,秘密は確実に保たれる。暗号鍵は使い捨てにする必要があるので,情報の伝送速度は鍵の伝送速度によって決まる。
 だが,光子1個という極めて微弱な光を送受信するのは容易ではない。長い距離を送るうちに光が弱まり,ノイズに埋もれてうまく受信できなくなるからだ。光子検出に使うフォトダイオードは測定するごとに内部に電荷がたまってノイズを発するので,これが放出されるまで次の測定ができず,速度の制限になっていた。
東芝は光子の光信号を1周期分ずらして差分を取ることで内部電荷によって生じるノイズを取り除き,動作周波数を大幅に高めた。最大50%程度あった検出の誤り率を5%程度に減らし,50kmの光ファイバーで毎秒1メガビットの暗号鍵を安定して送る実験に成功した。
 2007年にNTTなどが毎秒12ビットで200km,2008年に東芝が毎秒1メガビットで20kmを達成したが,時間とともに光ファイバーの温度が変化し,速度を維持できたのはわずか数秒だった。今回,東芝は36時間にわたって高速伝送ができることを確認した。
 東芝は10月にも,情報通信研究機構(東京・大手町と小金井市)や東京大学(東京・本郷)を結ぶ約50kmの光回線を使った国内初の実証実験に参加する。実験は同機構とNEC,三菱電機,NTTが計画したが,当初目標の50km,毎秒1メガビットが今回達成されたため,その先を目指す。欧州のIDクアンティーク(スイス・ジュネーブ大学発のベンチャー)とオーストリアの研究機関で作るチームも加わる。
 現在の暗号技術は,今のコンピューターの性能では解けない計算問題を応用することで解読を防いでいる。ただコンピューターが高性能になると問題が解けてしまうため,数年ごとに新型に入れ替える必要がある。米国では旧型の暗号が寿命を迎え,年内に交換が必要という「2010年問題」が指摘されているが,交換にかかるコストが課題。量子暗号なら交換が不要になると期待されている。

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