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心臓に悪い炭水化物〜日経サイエンス2010年8月号より

脂肪よりも加工・精製炭水化物の影響を示すデータが増えてきた

 

 飽和脂肪を控えましょう──過去30年間,米政府はそう推奨してきた。だが食事に占める飽和脂肪の割合を国民が1970年から忠実に減らし続けてきたのに,その間に肥満率は2倍,糖尿病は3倍になり,心臓病は依然として米国での死因のトップだ。
 最近の研究によって,その理由が浮かび上がってきた。飽和脂肪を“犯人”と見立てたのが間違いだったかもしれないのだ。多くの米国人は脂肪の代わりに加工・精製された炭水化物を食べるようになったが,これが肥満や糖尿病,心疾患のリスクをかえって高めている可能性があるという。米政府が今年中にまとめる新たな食事指針に大きな影響を与えそうだ。

 

飽和脂肪よりも精製炭水化物

 3月のAmerican Journal of Clinical Nutrition誌に,35万人近い人々の毎日の食物摂取と5~23年間にわたる心疾患の発症リスクを比べた1件のメタ解析(複数の調査研究データを組み合わせて解析したもの)が発表された。オークランド研究所小児病院で動脈硬化症の研究の責任者を務めているクラウス(Ronald Krauss)が監修したこの研究では,飽和脂肪の摂取量と心臓病リスクの間に何の関係も認められなかった。
 飽和脂肪は総コレステロール値を上げるので心臓に悪いというのが従来の見方だが,近年はそれを否定する研究結果が出ており,今回の解析結果もその1つだ。「従来説はほとんど推定に基づいており,データの裏づけがない」とクラウスはいう。
 従来説の問題点は「総コレステロール値ではリスクをうまく予測できない」ことだとハーバード大学公衆衛生大学院で栄養学・疫学の教授を務めるスタンファー(Meir Stampfer)はいう。飽和脂肪は“悪玉”コレステロールLDLの血中濃度を確かに上げるものの,“善玉”コレステロールHDLの濃度も上げる。
 2008年,彼はある共著論文をNew England Journal of Medicine誌に発表した。中程度に肥満した322人に,①米国心臓協会の指針に基づく低脂肪・カロリー制限食②野菜を多く獣肉を控えた地中海式カロリー制限食③炭水化物は少ないがカロリー制限はしない食事のいずれかを2年間続けてもらい,その結果を追跡した研究だ。この結果,低炭水化物食の人たちは飽和脂肪を最も多く食べたのに,HDLとLDLの比が最も健康的で,体重の減り方も低脂肪食を食べた人の2倍に達した。飽和脂肪はそれほど悪くはなく,むしろ炭水化物のほうが悪い可能性を示している。
 また,彼が1997年にJournal of the American Medical Association誌に発表した共著論文では,6万5000人の女性を対象に,摂取した炭水化物が消化・吸収されやすいものだったかどうか,つまりグリセミック指数(GI値:炭水化物が消化されて糖に変わる速さの指標)の違いによる差を調べた。この結果,食べた炭水化物の平均GI値が高いほうから1/5に属するグループは,平均GI値が低いほうから1/5に属するグループに比べ,2型糖尿病になる割合が47%高いことがわかった(脂肪摂取量は糖尿病リスクに影響しなかった)。
 このほか,1万5000人の女性を調べた2007年のオランダの研究がJournal of the American College of Cardiology誌に報告されている。それによると,体重過多で食事のグリセミック負荷(GI値にその炭水化物の重量をかけた値で,血糖値を上げる程度を表す)が大きいほうから1/4に属するグループは,同じく体重過多だが食事のグリセミック負荷が小さいほうから1/4に属するグループよりも,冠動脈心疾患の発症率が79%高かった。
 これらの傾向は,GI値の高い炭水化物が血糖に及ぼす“ヨーヨー効果”によってある程度の説明がつくだろうとボストン小児病院のルードウィッヒ(David Ludwig)はいう。高GI値の炭水化物を食べると血糖値が上がるが,血糖値の上昇が脂肪の生産と炎症をもたらし,総カロリー摂取量が増えインスリン感受性は下がる現象だ。

 

何を食べたらよい?

 脂肪と炭水化物に関するこの最新の情報は2010年版「アメリカ人のための食事指針」(5年ごとに改訂)に反映されるだろうか? 米農務省栄養政策推進局の副局長ポスト(Robert Post)は証拠の確実さによるという。「裏づけが少ない発見は,さらなる調査が必要なものとして扱われる」。現在,栄養政策推進局が米国民に呼びかけているのは,「食物の種類にはよらず,総カロリー摂取量を抑えること」だ。「消費者向けメッセージは簡潔で的確でなければならない」。
 またハーバード大学のスタンファーは規制当局が直面する別の問題として,「甘味飲料業界が激しくロビー活動しており,これらの研究すべてに疑問を差し挟もうとしている」ことを挙げる。
 飽和脂肪を思う存分食べるよう勧めている人は誰もいない。魚やオリーブ油に含まれる一部の不飽和脂肪は心疾患を防ぐことができる。さらに,繊維質を豊富に含む炭水化物が体によいことには疑問の余地がない。では飽和脂肪は? 結局のところ,シリアルやパン,パスタ,クッキーなどの加工炭水化物と比べ,飽和脂肪は健康に悪くもなければよくもないのかもしれない。
 「飽和脂肪を減らして,その代わりにGI値の高い炭水化物を増やしたら,利点がないだけでなく,むしろ有害かもしれない」とルードウィッヒは主張する。次にバタートーストを食べるときには,「パンよりもバターのほうが実は健康によい成分だ」と考えてほしいという。

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