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月のグラファイト〜日経サイエンス2010年11月号より

アポロ計画で採集された試料から見つかった隕石衝突の証拠

 

 1972年のアポロ17号以来,人類は月に足を踏み入れていないが,アポロ計画の一連のミッションはいまだに驚くべき発見を生み出している。収集された月の岩石を分析した結果,グラファイト(黒鉛)の存在を示す確かな証拠が初めて見つかった。
 ワシントン・カーネギー協会の宇宙生物学者スティール(Andrew Steele)らはScience誌7月2日号に,標本の小さな暗部(わずか0.1mm2)のなかに数十個のグラファイト粒子のほか,グラファイト・ウィスカーという針状の炭素を7個発見したと報告した。他の標本には太陽風によって刻み込まれた炭素や炭化物として固定された炭素がかすかに見られたが,この標本でグラファイトが見つかった窪みはそれらに比べると大きいうえ別々に分かれており,ほかとは異なるとみられる。
 研究チームはこのグラファイトが隕石の衝突によって生じたと推測している。おそらく「後期重爆撃期」として知られる約40億年前の衝突頻発期のものだ。「これらグラファイトのかけらは炭素を含む隕石が衝突した後に生じた塵の名残か,あるいは衝突に伴って放出されたガスから凝縮した炭素だろう」とスティールはいう。前者だとすると,これらグラファイトの薄片とウィスカーはアポロ17号の着陸地点に近い巨大な「晴れの海」の盆地を掘った隕石の一部なのかもしれない。
 ヒューストンにある月・惑星研究所のスピューディス(Paul D. Spudis)もグラファイトが「おそらく何らかの衝突天体の名残」だとみるが,その衝突天体は「晴れの海」盆地をえぐったものとは異なるかもしれないという。スピューディスらは1981年,アポロ17号が採集した衝突溶融岩石は複数の衝突によって生じた可能性があると提唱した。
 いずれにせよ,アポロ計画で集められた科学資源がまだまだ尽きていないのは明らかだ。高感度の顕微鏡と化学分析法の開発に伴い,既存の試料から今後も新発見が生まれることだろう。近いうちに月に人類を送る計画を進めている国がないことを考えると,これはグッドニュースだといえる。

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