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眠りの効用〜日経サイエンス2011年3月号より

睡眠が脳の機能を回復させるのはなぜか 透明な熱帯魚を使った実験が疑問に迫る

 

 睡眠の効用は当然に思えるが,睡眠が脳の活動を細胞レベルでどのように改善しているのかについては,長年にわたる科学議論がなお続いている。睡眠はニューロン間のつながりのうち重要ではないものを減らし,脳に過大な負荷がかからないようにしているという主張もあれば,睡眠によって前日の記憶が整理されて定着するのだという見方もある。
 最近ある研究者グループが,お馴染みの観賞用熱帯魚ゼブラフィッシュの透明な幼生を調べることで,この議論に決着をつけようとした。ゼブラフィッシュは人間と同様,日中に活動して夜に眠る。しかし,ゼブラフィッシュの幼生は人間と違って透けているので,脳を目で見て観察できる。
 スタンフォード大学のアッペルバウム(Lior Appelbaum)とモウレイン(Philippe Mourrain)が率いるチームは幼生のニューロンを色素で標識し,ニューロンの接続部(シナプス)が活動しているときには緑色に,活動していない場合は黒く見えるようにした。シナプスの活動が低下していれば,睡眠が不要な記憶接続を刈り込んでいることを示していると考えられ,記憶が整理され定着しているのであれば,シナプスの活動は別のパターンを示すだろう。

 

お休みシナプス

 シナプス活動の変動を1日を通して追跡した結果,ゼブラフィッシュの睡眠中にはシナプス活動が確かに低下していることがわかった。これは生きている脊椎動物のシナプス活動に睡眠・覚醒サイクルと1日の時刻がどう影響するかを示した初の例で,Neuron誌に発表された。
 「睡眠は脳の活動を抑える積極的なプロセスだ」とモウレインはいう。「それによって脳は過去の経験から回復できる」。睡眠時に起こるシナプスの活動低下がなければ,脳は新情報を取り入れて保存できなくなるだろうと指摘する。
 だが,これで一件落着とはいかない。研究チームは,すべての神経回路が睡眠によって同じように影響を受けるわけではないことも発見した。学習と記憶が最も恩恵を受けているようだとモウレインはいう。このため,睡眠に関する2つの仮説は「どちらか一方だけが正しいというものではないだろう」と独リューベック大学の神経科学者ボーン(Jan Born)はいう。
 そう遠くない将来に白黒がつくかもしれない。今回の新しい画像技法を利用することで,今後は睡眠中の脳をより詳しく観察できるようになるだろう。

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