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幽霊粒子が大量に〜日経サイエンス2011年3月号より

新種のニュートリノが暗黒物質の正体か

 

 ニュートリノは最もとらえにくい粒子で,人体も地球も特別に設計した検出器さえも,すべてを通り抜けてしまう。だが,「ステライルニュートリノ」という未確認の同類と比べれば,通常のニュートリノは爆竹みたいなものだ。ニュートリノは「弱い力」というはかない力を介して通常の物質と相互作用するだけだが,ステライルニュートリノはこの相互作用すらしない(ステライルは「不毛な」の意味)。
 ところが最近の実験で,ステライルニュートリノが実在するだけでなく,ごくありふれた存在であることを示す興味深い証拠が見つかった。天文学者を何十年も悩ませている暗黒物質(ダークマター)の正体はステライルニュートリノなのかもしれない。そうした劇的な大発表にはまだ早すぎるようだが,「正しいと確認されたら,極めて重要な発見だ」とカリフォルニア大学ロサンゼルス校のクセンコ(Alexander Kusenko)はいう。

 

暗黒物質のX線,超新星の動き

  検出が事実上不可能な粒子を,いったいどのようにして見つけたのか? クセンコと米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのレーベンシュタイン(Michael Loewenstein)は,ステライルニュートリノはときどき崩壊して,より軽い通常のニュートリノとX線光子を生じるはずであり,暗黒物質が見つかっている場所でそれらのX線光子を探せば暗黒物質の正体がステライルニュートリノであるかどうかを確かめられると考えた。
 彼らはチャンドラX線望遠鏡を使って,暗黒物質を豊富に含むと考えられている近くの矮小銀河を観測し,ステライルニュートリノの崩壊から予想されるのと同じ波長のX線が他の波長よりも強く出ていることを発見した。
 また,超新星の観測から別の証拠が見つかっている。ステライルニュートリノが実在するなら,超新星から磁力線に沿って細く絞られた強いステライルニュートリノ流が飛び出し,その反動で超新星の中央部にあるパルサーが宇宙空間を移動しているはずだ。まさにその通りの現象が観測された。超新星のパルサーは秒速数千kmの速さで宇宙空間をすっ飛んでいる。

 

地上実験でも可能性

 ステライルニュートリノの証拠を地上の実験に求めることもできる。米国立フェルミ加速器研究所の研究チームは最近,その証拠を探るために16年前の実験結果を検証した。通常のニュートリノを500m離れた地中の検出器に向かって発射した実験だ。ニュートリノは飛行中にタイプが変わるが(ニュートリノ振動という現象),その変化の仕方が,ステライルニュートリノが実在する場合に予想されるものとまさに一致した。
 次の段階はこれらの結果の確認だ。レーベンシュタインとクセンコは最近,別のX線宇宙望遠鏡XMMニュートンで同じ観測を繰り返した。フェルミ研究所のチームも,もう一度同じ実験を行う準備を進めている。隠れ上手なこの粒子を捕まえられるのも,そう遠いことではないかもしれない。

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