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ヒッグス探索に王手〜日経サイエンス2012年2月号より

万物に質量を与える粒子の姿が見えてきた

 

 万物に質量を与える素粒子,ヒッグス粒子が存在する兆候がとらえられた。スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機構(CERN)にある大型ハドロン衝突型加速器LHCを用いて陽子衝突実験に取り組む2つの国際共同研究グループ,ATLASとCMSが12月13日に発表した。ただ,「発見」というには実験データが不十分で,2012年の実験で最終結論が出る見通しだ。

 ATLASの結果は「ヒッグス粒子は質量がエネルギー換算で約126GeV(1Gevは10億電子ボルト,陽子や中性子は約1GeV)の領域に存在する確率が98.9%」。一方,CMSは「約124GeVに存在する確率が97.1%」。素粒子物理学の世界では,新粒子が存在する「兆候」をとらえたと発表するには確率99.9%以上,「発見」というには99.9999%以上であることが必要だ。

 その基準からすると,両グループが今回発表した確率は「兆候をとらえた」というレベルにも及ばない。

 しかし,それぞれ独立して実験に取り組む2つのグループが,ほぼ同じエネルギー領域でヒッグスの存在をうかがわせるデータを得たということは,発表された確率以上の重みを持つ。ヒッグス探索に王手がかかったといえそうだ。LHCは順調に稼働していることから,2012年中に「ヒッグス発見」が発表される可能性が高い。

 LHCの実験では,地下に建設した一周約30kmの巨大なリング状の加速器を使って,互いに逆方向に走る陽子をほぼ光速まで加速,正面衝突させる。これによって宇宙誕生直後と同じ超高エネルギー状態を実現,ヒッグス粒子を生み出す。ヒッグス粒子はすぐに,複数個のより軽い素粒子へと崩壊する。ATLASとCMSは崩壊してできたこれらの素粒子の種類とエネルギー,飛散する方向などを精密に測定,崩壊する前の粒子が既知の粒子か,それともヒッグス粒子なのかを調べる。

 ヒッグス粒子は現在の素粒子物理学の理論的枠組みである標準モデルの中でその存在が理論的に予測されながらも,まだ検出されていない唯一の素粒子だ。しかもその質量がどれほどなのか,理論的にはわからないので,幅広い質量領域をしらみつぶしで調べるしかない。もし既知の素粒子の質量とは異なる質量(エネルギー)のところで多数の粒子が出現すれば,それがヒッグス粒子の可能性がある。(続く)

 

続きは12月24日発売の2月号誌面でどうぞ。

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