日経サイエンス  2009年10月号

対談

論理と感性のバイリンガルに

山中俊治(工業デザイナー) 茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)

 およそどんな製品も,科学技術とアートが交差するところに生まれる。だが,両者の間のコミュニケーションは難しい。アーティストが感性から紡ぎ出す言葉はとかく科学者にはつかみ所がないように感じられるし,科学者が語るロジックはアーティストには無味乾燥で個性がないように受け取られることもある。

 

 工業デザイナーの山中俊治さんは,アーティストとも科学者とも議論ができる希有なバイリンガルだ。東京大学工学部を卒業し。自動車メーカーのデザイナーを経て独立。ロボットなどの先端技術から、キッチンツールや自動改札機など身の回りの道具まで,幅広い工業製品のデザインを手がけている。

 

 2009年夏,山中さんが企画して六本木で開いた「骨」展を,脳科学者の茂木健一郎さんが訪ねた。工業製品の骨組みから動物の骨まで,表面に見えている色や形だけでなく,中の仕組みや機能を含めてデザインしようという試みだ。

 

 論理と感性は互いに否定しあうと山中さんは語る。「感覚に頼って作るとロジックが崩壊するし,ロジックに頼って作ると感覚でつかんでいたものが逃げてしまう」。なので意図的に頭を切り換え,感覚的に作るのとロジカルに設計するのとを交互に行う。その両方が満足する接点が見つかるまで,デザインは完成しないという。

 

 論理と感性の両方を理解して,最適解を見つけるためには何が必要か。山中さんの発想の源を聞いた。

ゲスト:山中俊治(やまなか・しゅんじ)
工業デザイナー。1957年,愛媛県生まれ。82年東京大学工学部卒業,日産自動車デザインセンター勤務。87年に独立,94年リーディング・エッジ・デザイン設立。ロボット「morph」,「Halluc」,JR東日本のSUICA用自動改札機,OXO社のキッチンツールなど幅広い工業製品のデザインを手がける。2008年から慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。

ホスト:茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年,東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了,理学博士。理化学研究所などを経て現職。東京工業大学大学院客員教授。専門は脳科学,認知科学。「クオリア」をキーワードに脳と心の関係を研究している。著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社),『脳と仮想』(新潮社)ほか多数。

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