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恋するサンゴ~日経サイエンス2011年7月号より

たそがれ時に一斉に産卵する理由

 

 身体が固定されていると,異性に求愛するのは難しい。だから,サンゴを形づくるポリプという小さな生物は交尾をする代わりに,何百万個もの精子と卵子を海中に放出する。それらは海面まで上昇して互いにぶつかり合い,幼生となって海を漂い,遠く離れた新たな場所にサンゴ礁を作り出す。
 ポリプは“お相手”の選り好みはしないが,タイミングにはこだわる。サンゴ礁のポリプは卵子と精子を年に一夜だけ,あるいは多くても連続する2〜3夜の間に,一斉にそろって噴き出す。そしてその時期はふつう,満月のすぐ後に続く数日の日没後だ。放出のタイミングがなぜ同時にそろうのか,その謎が解き明かされようとしている。

 

夏の満月のたそがれ時に
 ポリプには中枢神経系がないので,個々のポリプがどのようにこうもうまく連携しあっているのか,科学者たちも長らくお手上げ状態だ。サンゴ礁ではふつう,夏の満月の日,日没後のたそがれ時に20分間ほど一斉に卵子と精子の放出が起こる。サンゴがどうやって産卵月を知るのかについて専門家の意見はいまだに分かれているが,カリフォルニア大学サンタバーバラ校の進化生物学者スウィーニー(Alion Sweeney)は問題の範囲を絞り込むことにした。つまり,サンゴはどうやって産卵の瞬間を正確に選んでいるのか,という疑問だ。
 たそがれ時の空の色合いが赤から青に変わることが,ポリプにきっかけを与えているのではないかとスウィーニーは考えた。満月の前は,日没よりも前に月が出て,沈み行く太陽の赤っぽい光をこの月が反射するので,夕焼け空は少し赤みを増す。これに対し満月の直後は,月の出は日没よりも後になるので,月は赤っぽい光をもはや反射できず,夕焼け空は青みがかる。

 

日没後の青い空
 この仮説を検証するため,スウィーニーは2009年8月にカリフォルニア大学サンタバーバラ校とデューク大学の共同研究チームを率いてバージン諸島に行き,カリブ海によく見られるエルクホーンサンゴ礁を,産卵が始まると思われるころ,6晩にわたって観察した。サンゴ礁の近くに分光器を浮かべ,そこからサンゴ礁(だいたい海面下2.5mのところにある)まで光ケーブルを垂らして測定した結果,たそがれ時の海に差し込む光の色が日々変わっていることがわかった。その変化は空の色を反映していた。このサンゴは日没後の空が青く見えている間に産卵した。満月の3日後と4日後の午後9時20分から9時50分くらいまでだ。

 

続きは現在発売中の7月号誌面でどうぞ。

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