きょうの日経サイエンス

2011年1月5日

大科学実験:水深10000mのバイク

 

皆さま,おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。<(_ _)>年始,一回目の今晩は,日本が世界に誇る海洋学研究の中心地・海洋研究開発機構(JAMSTEC)の全面協力の下,深度10000mでの水圧を実感しよう,という大実験──と聞いて,「おお,マリアナ海溝に潜るのね! ん? 水深10000m? あれ? 『かいこう』って,結局見つからなかったんだよね??」と妙にテンションを上げた方(いるだろうなぁ,このブログに来る人なら),詫摩とご同病でございます。

 

最初は,本当に探査機に“何か”をくくりつけて,深海まで運ぶつもりだったのだそうです。ですが,カメラワークが固定されるし,たとえば,ちょっと角度を変えたいと思ってもままならないし,苦労の割に面白い映像になりませんよとアドバイスを受け,タンクでの実験に変更に。

 

あのタンクは,実際に深海で使う機材を試験するためのものなのだそうです。あの中で水圧実験をし,パスしたものだけが,実際に深海で使われるのだとか。

 

中に入れるものをバイクにしようと決めたとき,ディレクターの寺嶋章之さんは市販のミニバイクを買って,少し加工すれば大丈夫と思ったそうです。ですが,あのタンクは実験装置としても貴重なものですから,中で破裂してタンクを痛めるような素材はダメ。粉々になって,排水するときに管を詰まらせる恐れのあるものもダメ。さらに,穴という穴をすべて塞がないと中に水が入ってきて,水圧をかけてもつぶれなくなってしまいます。で,一から作った方が速いということに。かくして“鉄三部作”(by寺嶋)の掉尾を飾るごつい鋼鉄バイクが誕生したわけです。

 

実際に制作を依頼した先は,JAMSTECに紹介された新潟市の町工場。ここは社長以下,従業員の方々が非常に魅力的な人たちばかりだったそうです。「ねじ10万本って注文は引き受けないけれど,一点ものならばやるって感じの人たちばかり」(寺嶋さん)。実際,ここでの製品は深海だの宇宙だので活躍しているそうです。
「机の上にぴかぴかの金属のリンゴが置いてある。で,持ち上げるとぱかっと2つに割れて中が空洞に。『何ですかこれ?』『物入れ。趣味で作った』。で,2つを合わせると,もう,線さえ見えないんですよ」(寺嶋さん)
・・・・・趣味でそういう物を作ってしまうような人たちなのです。

 

さて,JAMSTECの実験タンクですが,とにかくすごい圧力になるので,蓋が半端ではありません。あの蓋は,あらかじめキンキンに冷やしておくのだそうです。冷えた蓋が室温に戻るときに膨張するのを利用して,隙間なくピタッとさせるんですね。蓋を冷やすのは前日から。

 

「だから一日一回しか実験できないんですよ」と森美樹チーフプロデューサー。前回のボールを打ち上げて放物線を描かせる実験では100回はやったというから,たった1回きりというのに不安や不満を感じるのはもっともだと思うのですが,バイクだって一点ものだし・・・。

 

番組ではもちろん編集していますが,水深10000m相当の圧力をかけるのに1時間はかかったそうです。「みんなし?んと黙っていて,たまに,ぱきっ!びしっ! もう,何のホラー映画の撮影?って感じでした」(森さん)

 

圧力をもとに戻すのにもやはり時間がかかり,終わってみれば黄昏時。「もう一度,外でつぶれたバイクを撮ろうとしたら,すっかり暗くなっちゃって」(寺嶋さん)。でも,港のような背景で,ちょっとかっこよかったですよ?。

 

さて,そのバイクですが,今はNHKエデュケーショナルのオフィスにあります。しげしげ見ると,曲線だけでなく,溶接あり,折れ曲がりありと,実に複雑。それが,タイヤと燃料タンク以外,どのパーツも見事につぶれています。つまり,燃料タンクとタイヤこそネジの部分から水が入ってしまいましたが,あとは1ミリ以下の穴も空いていないということ。本当にお見事です!

 

 

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