きょうの日経サイエンス

2010年12月21日

Science誌の選ぶこの10年の10大成果:細胞の初期化

Science誌の選ぶこの10年の科学の10大成果の4番目には「火星の水」(Water on Mars)が挙がっておりますが,これも編集部内に詫摩よりふさわしい書き手がおりますので,お任せするとして,5番目の「細胞の初期化」(Reprogramming Cells)に参りましょう。

 

10大成果のうち,これだけは一般紙でもニュースになりましたので,ご存知の方も多いと思います。ここでの「細胞の初期化」とは,京都大学・山中伸弥先生によるiPS細胞の開発そのものを指しています。

 

iPS細胞については,再生医療や創薬,病態モデルなど,応用面が強調されていますが,生物学に少し詳しい者にとってはまさに衝撃的な研究でした。

 

赤ちゃんは成長して若者となり,やがては老人になります。これは避けられません。運動や食習慣である程度は老化を遅らせることができるとの報告もありますが,たかがしれています。老いは避けられません。これは細胞も同じで──と思われていました。1996年のクローン羊のドリーの誕生までは。

 

ドリーの誕生は,細胞レベルで時計を巻き戻すことが哺乳類でも可能であることを示しました。ただ,クローン技術では卵を必要とします。卵細胞の“不思議な力”が,ゲノムDNAの時計の巻き戻しを可能にしたのです。この“不思議な力”の正体については,今もって,はっきりとはわかっておりません。

 

山中先生のお仕事は,卵細胞の“不思議な力”と同レベルのことを,たった4つの遺伝子を入れることで実現させたことにあります。これは驚異以外の何ものでもありません(ただし,iPS細胞は受精卵レベルまではさかのぼっていないので胎盤の細胞にはなりません。つまり,クローンと異なり,単独で個体になることはありません)。

 

今回,この「10年の10大成果」に選ばれましたが,2050年に「この半世紀の10大成果」を選んだとしても入るのではないかと思います。(詫摩)

 

関連する記事
「iPS細胞の衝撃」詫摩雅子/協力・中内啓光 2008年7月号
「創薬に活躍するiPS細胞」詫摩雅子 2009年08月号
「動物で育てるヒトの臓器」詫摩雅子 2009年08月号
「ここまで来たiPS細胞」K. ホッケドリンガー 2010年7月号
「動き始めたオールジャパン体制」詫摩雅子 2010年7月号

拙文が多くて恐縮です。<(_ _)> 
ホッケドリンガーさんの記事を読むと,基礎から2010年5月時点の研究の進み具合が一望できます。
なお,これらの記事をすべて収録し,新しい情報も付け加えた別冊を1月中旬に刊行する予定です。