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超光速ニュートリノが疑わしいわけ〜日経サイエンス2012年1月号より

多くの物理学者が懐疑的にみている

 

 素粒子ニュートリノがアインシュタインの特殊相対性理論に反して超光速で移動している可能性があるとの結果が,去る9月に発表された。OPERAと呼ぶ国際共同実験チームが,スイス・ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)からニュートリノビームを地中に向けて発射し,イタリア・ラクイラの地下にあるグランサッソ研究所で検出した実験だ。実験チームの見積もりによると,ニュートリノは光よりも約60ナノ秒早くグランサッソに到達した。

 専門家の間にはこれを疑問視する見方が強い。ニュートリノの移動速度に関するそれ以前の計測結果は,この粒子が“宇宙の制限速度”をきちんと守っていることを高精度で示していたからだ。ボストン大学のコーエン(Andrew Cohen)とグラショー(Sheldon
Glashow)は9月29日にオンライン投稿した簡潔な論文で,ニュートリノがその媒質中での光の速度よりも速く移動すると,より低速な粒子を放出してエネルギーを失い,それらの粒子によって描かれた航跡が後に残るはずであることを計算で示した。超音速戦闘機が生む衝撃波のようなものだ。

 

粒子はエネルギーを失うはず

 しかし,グランサッソで検出されたニュートリノはスイスで発射されたときと同じエネルギーだったので,速度計測の正確さに疑問があるとコーエンとグラショーは指摘する。「すべての粒子が同じ速度上限を持っている場合は,どれか1つの粒子が別の粒子を放出してエネルギーを失うことはできない」とコーエンは説明する。「しかし,粒子の速度上限が同一でないなら」,別の粒子の放出が起こりえる。

 この種の効果は,電子の速度上限が高く(光速で移動可能),光そのものの速度上限がそれよりも低い場合(水や空気などの媒質中を伝わっている場合など)に起こることがよく知られている。この場合,電子はその媒質中で光子が移動するスピードよりも速く動くことが可能で,電子は光子を放出してエネルギーを失う。速度上限の異なる粒子の間で起こるこのエネルギーの移動は「チェレンコフ放射」と呼ばれる。原子力発電所の核燃料プールが青く光って見えるのはこの現象による。

 ニュートリノの場合,後に残されて航跡となる粒子は,ほとんどが電子と陽電子(電子の反粒子)のペアになることをコーエンとグラショーは計算で示した。重要なのは,こうした電子・陽電子対の生成はCERNから発射された典型的な超光速ニュートリノがグランサッソに到達するまでに,そのエネルギーをほとんど失ってしまうような頻度で起きるということだ。したがって,やはりニュートリノはそもそも超光速ではなかったのだろう。(続く)

 

続きは現在発売中の2012年1月号誌面でどうぞ。

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