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 先月号ではクラブの談話室の模様替えの様子を述べた。クラブ王室では,ジャックも10人の兵士たちも自分の明確な意見を持たなかったために,変に確率的なプロセスを経て,模様替え方針が定まった。それに似ているようだが,ある意味でもっと厄介ともいえる事態がダイヤ王室では生じていた。今月号では,そのダイヤ王室で起こった談話室模様替えのあらましについて紹介しよう。

 ダイヤの談話室の模様替えにも2つの案があった。ダイヤの王侯たちは民主的で,まず兵士たちの意見を聞いてから決めようということで,どちらがいいか最初に全員の意見を聞いた。その時点でそれに王侯たちの意見を加えてさっさと決めればよかったのだが,ダイヤ王室は妙に慎重なところがあり,少しほうっておけば意見が集約するのではないかと期待して,最終決定を数日後に延ばし,それまで兵士どうしでよく相談するようにと言い渡した。

 「ふーむ,それでどうなりましたかな,ダイヤの女王陛下?」と,その話を聞いたハートの女王が尋ねる。

 「それがですね,ハートの陛下,ちっとも意見が集約しないのです」とダイヤの女王。「兵士どうしで相談するようにと,わらわは申し渡したのですが,兵士の間にも,互いにうまが合ってよく話し合う関係と,まったく話をしない関係というのがあるようです。それはまあよくある話なのですが,困ったことには,兵士どもは友達思いというか,移り気というか,ともかく友達の意見に影響されやすいのです」。

 「奇妙なことに,どの兵士も,よく話をする友達の数は奇数名らしいのですが,ある日にその奇数人の友達と話をして,一方の案への賛成者のほうが多いようなら,翌日は自分の意見をその多いほうの案へ変えているようなのです。つまり,兵士たちが毎日のように意見を変えるものですから……」

 「兵士たちの友達関係はいつも一定で,その友達とは毎日意見を交換するのですか?」

 「はあ,そのようです。どこかに集約するだろうと思っていたのですが,いつまでたっても……」

 「ほれ,御覧なさい,ダイヤの陛下。民主的にやろうなんて考えると,ろくなことはありません。その2つの案とはこのA案とB案ですか? ふーむ,それならA案がよろしい。是非,A案になさい。こういうことは,ご自分の好きなように決めるのが手っ取り早いのですよ。陛下」

 ということで,民主的にやろうとしたばかりに,かえってハートの女王の好みを押し付けられてしまったダイヤ王室であるが,読者にはこのあたりで問題を考えていただこう。

 兵士の意見の変え方がダイヤの女王の言うとおりだとすると,確かにいつまでたっても意見が集約しないことはありうる。例えば,兵士が2人だけの仲良しペアを作っているなら,そのペアは,最初に意見が一致していればいつまでも意見を変えないが,最初の意見が不一致なら1日ごとに意見を変えることになる。また,例えば,エースは全員と話をするが,他の9人は互いにまったく話をしない場合,最初にエースの意見が他の9人の多数派の意見と同じならば意見はすぐ集約するが,そうでないと2日目にエースと他の9人が反対意見になり,以後は全員が1日ごとに意見を変えることになる。

 さて,考えていただきたいのは,ダイヤの女王の言葉が正しい場合,明らかに意見の変遷は決定論的なプロセスに従う。意見の分布は有限種類しかないから,どこかで周期的になり同じパターンを繰り返すことになるが,そのときの周期がいくつになるだろうかということだ。上で述べた例の場合,周期は2または1だったが,それより長い周期で繰り返すことがあるだろうか?

答えは6月16日に