日経サイエンス  2019年2月号

特集:量子もつれ実証

最終決着「ベルの不等式」の破れの実験

R. ハンソン(蘭デルフト工科大学) K. シャルム(米国立標準技術研究所)

すべての革命が華々しく始まるわけではない。量子力学においては1964年,物理学者ジョン・ベルが1つの数式を発表したときに,そんな静かな革命が始まった。その数式は,量子力学の創始者たちを悩ませた哲学的問題に答えを出すための実験を提唱するものだった。

 

その問題とは,遠く離れている2つの粒子が,「量子もつれ」と呼ばれる奇妙なつながりを持ち得るかということだ。もつれた2つの粒子の一方を測定すると,その結果は完全にランダムになる。ところが他方の粒子を測定すると,まるでもう一方の粒子の測定結果を知っているかのように,完全に連動した結果が表れる。ベルは量子もつれの有無によって異なる結果が得られる実験のセットアップを考案し,判断の基準となる不等式を考案した。

 

以来,ベルの不等式を検証する実験が,様々な方法で実行されてきた。どれも量子もつれの存在を裏づけたように見えたが,論理的な抜け道が残っており,見かけの量子もつれを検出している可能性を否定しきれなかった。2015年,米欧の4つのグループが,そうした抜け道を完全にふさいだベル実験を実施。量子もつれが実際にあることを独立に実証し,この問題に最終決着をつけた。

 

ベルの不等式は,過去半世紀にわたって,量子論に対する私たちの考え方を大きく変えてきた。現在,物理学者が開発を進めている量子テクノロジーの多くが,このベル実験から始まっている。

 

著者

Ronald Hanson / Krister Shalm

ハンソンはオランダのデルフト工科大学の物理学者で,同大とオランダ応用科学研究機構が設立した量子コンピューティングと量子インターネット技術の研究機構QuTechの科学ディレクター。シャルムは米国立標準技術研究所(NIST)とコロラド大学ボルダー校の物理学者。量子力学の基本問題の検証ツール開発に取り組む。

監修
谷村省吾(たにむら・しょうご)


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ワームホールと量子もつれ 量子時空の謎」,J. マルダセナ,日経サイエンス2017年1月号。

原題名

Spooky Action(SCIENTIFIC AMERICAN December 2018)

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