日経サイエンス  2018年12月号

特集:新・人類学 第一部人間性の起源

ヒトがヒトを進化させた

特異性

K. ラランド(英セント・アンドルーズ大学)

大抵の人は,人間は特別な生物であり,他の動物とはまったく異なるのだと考えている。科学者たちはむしろ,長くホモ・サピエンスの独自性を認めることには慎重だったが,近年,人間が本当に驚くべき種であることを示す信頼に足る科学的データが蓄積されてきている。

 

人間の集団密度は,同サイズの動物における一般的な集団密度をはるかに上回る。その地理的な居住範囲は驚くほど広いし,エネルギーや物質の流れを前例のない規模でコントロールしている。人間の影響が全球規模に及んでいるのは間違いない。知能とコミュニケーション力,知識の獲得・共有能力を備え,さらには見事な芸術や建築,音楽を作り出している。人間は動物の中で突出しており,私たちの文化は,私たちを自然の他の部分から隔てているように見える。

 

人間がここまで到達したのは,他の個体から知識やスキルを獲得する能力によってもたらされたというのが,最近のコンセンサスである。長い時間をかけて集めた知識の蓄積の上に,各個人が新たなものを積み上げていく。共有できる経験の蓄積があれば,日々起きる課題に対して,多様な解決法を極めて効率よく生み出せる。大きな脳や知能,言語が人間に文化をもたらしたのではなく,むしろ文化が大きな脳や知能,言語をもたらしたのだ。文化が進化のプロセスを変えたのである。

 

「文化」という言葉はファッションやフランス料理を連想させるが,その科学的な本質を突き詰めれば,1つのコミュニティーのメンバーが共有する行動パターンである。自動車のデザインやポップ音楽のスタイル,科学の理論,採食行動など,あらゆるものは,最初にあった基本的な知識を段階的に改良していくイノベーションの繰り返しによって進化する。絶え間のない模倣とイノベーションこそが,人間が成功した秘密なのだ。

著者

Kevin Laland

スコットランドのセント・アンドルーズ大学の行動・進化生物学教授。著書に「Darwin's Unfinished Symphony: How Culture Made the Human Mind」(Princeton University Press,2017年)がある。

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人類の文化の夜明け 早かった象徴表現の起源」,K.ウォン,日経サイエンス2005年9月号。

原題名

An Evolved Uniqueness(SCIENTIFIC AMERICAN September 2018)

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