日経サイエンス  2018年12月号

詳報:ノーベル賞

未知の免疫機構 発見へつないだバトン

ノーベル生理学・医学賞

がん免疫療法 革新もたらした基礎研究

出村政彬(編集部)

 本庶佑氏のノーベル生理学・医学賞の受賞理由では,基礎研究が新たながん免疫治療薬を生んだことが高く評価された。ところが本庶氏は「当初はがんと関連するとは思わなかった」と研究が始まった1990年ごろのことを振り返る。本庶氏の指揮のもと,免疫の新たな仕組みを探るため,多くの研究者たちの探究のリレーが繰り広げられてきた。「チーム本庶」の四半世紀にわたる軌跡を辿る。

 研究の序章は1980年代に遡る。免疫が「自己」と「非自己」を見分けて攻撃する仕組みについて,分子レベルの解明が大きく進んだ時代だ。このテーマに魅力を感じた石田靖雅氏(現・奈良先端科学技術大学院大学独立准教授)が,既に免疫の分子機構解明で先頭を走っていた本庶氏の研究室に大学院の学生として加わったことから全ては始まる。石田氏と本庶氏はディスカッションを重ね,免疫の主力となるT細胞で働く新たなタンパク質「PD-1」を発見したのだ。

 PD-1は当初,T細胞のアポトーシス(細胞死)に関わると考えられた。しかしPD-1が働かないマウスを作っても何も変化は起こらず,機能の解明は難航。そこへ免疫学を専門とする湊長博氏(現・京都大学副学長)が加わることで,事態は打開する。PD-1は免疫システムのブレーキとして働くことがわかってきた。

 さらに,岩井佳子氏(現・日本医科大学大学院教授)がPD-1に結合する因子「PD-L1」を探索する過程で,がん細胞にこの因子があることに気付く。マウスを使った実験から,がん細胞がPD-L1を持っているとがんの増殖が加速することがわかった。一方,PD-1を初めから持たないマウスではがんの増殖は加速しない。PD-1の働きを抑える抗体を作れば,がんを治療できるかもしれない。本庶氏は確信を抱き,実用化に向けて動き出した。

 粘り強い本庶氏の交渉の末,がん免疫治療薬「ニボルマブ」が2014年に実現。現在も,この薬の効果を上げる研究がチーム本庶の手によって継続中だ。さらに,免疫のブレーキPD-1が本来体の中で果たしている役割について,免疫の本質に迫る新たな研究もスタートした。

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