日経サイエンス  2018年1月号

特集:性とジェンダーの科学(後編)

見過ごされてきた医学上の性差

M. L. ステファニク(スタンフォード大学)

2013年1月,米食品医薬品局(FDA)は,米国で最もよく使われる睡眠薬アンビエン(日本名マイスリー)の推奨用量を,女性についてだけ半減した。アンビエンと同じ有効成分を用いた製品を服用している米国女性570万人の15%が,8時間後に居眠り運転したことがあると判断したためだ。男性の利用者350万人では3%しかいなかった。

 

広く処方されてている医薬品の多くは,薬物代謝や耐性,副作用,効能などが,平均的な女性と平均的な男性との間で顕著に異なっている。だがその性差は,長らく見過ごされてきた。理由の1つは,性差を調べる研究が行われてこなかったことだ。動物を扱う医学研究の大部分は,オスの,主に齧歯類だけを用いている。女性が臨床試験に参加している臨床試験は少なく,2003年の心血管疾患治療の臨床試験258件を調べたところ,女性の参加があったのは27%に過ぎなかった。この状況では,心臓発作で入院した若い女性の死亡率が若い男性の2倍に達する理由が不明だったのも,驚くには当たらない。

著者

Marcia L. Stefanick

スタンフォード大学で予防研究センターの医学教授と医学部の産婦人科学の教授を務めている。スタンフォード女性と性差医学センターの所長でもあり,心臓病予防と健康な老化について高齢女性を対象とする大規模な臨床試験を行っている。

原題名

Not Just for Men(SCIENTIFIC AMERICAN September 2017)

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