日経サイエンス  2016年3月号

フロントランナー 挑む 第57回

森林が紡ぐナノファイバーで強くて軽く地球に優しい材料:矢野浩之

竹下敦宣(日本経済新聞大阪本社経済部次長)

すべての植物の骨格は高分子の鎖が絡まり合った天然繊維からなる
このセルロースナノファイバーを木材から安価に生産,加工できれば
鉄やプラスチックに代わる,地球への負荷が少ない基幹材料が実現する

 

 

生い茂る木々にウッドハウス。京都大学宇治キャンパス(京都府宇治市)の一角に,森の中にいるような錯覚を覚える場所がある。その森の主は京都大学生存圏研究所教授の矢野浩之。樹木はもちろん全植物の骨格を支えるセルロースナノファイバー(CNF)の研究開発で世界の先頭を走る。植物の細胞壁を構成するCNFは太さ4~20nm,長さ5µm以上。極めて細く長いナノ繊維で,強度は鉄の7~8倍もあるにもかかわらず,密度は鉄の1/5と軽い。自動車部品や電子デバイスなどへ応用が見込まれ,鉄などを代替できれば地球温暖化の防止にもつながる一石二鳥の材料だ。 (文中敬称略)

 

 

再録:「挑む!科学を拓く28人」

 

矢野浩之(やの・ひろゆき)
京都大学生存圏研究所教授。1959年長野県生まれ。1982年京都大学農学部卒業,同大学大学院農学研究科を経て1986年京都府立大学農学部助手,1998年から京都大学木質科学研究所(生存圏研究所の前身の1つ)の助教授に。2004年から現職。

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