日経サイエンス  2014年7月号

特集:脳地図革命

脳の実相に迫る

R. ユステ(コロンビア大学) G. M. チャーチ(ハーバード大学)

 脳の各部分を色分けし,ここは視覚,あそこは記憶,そちらは言語処理を担う,などの役割を示した地図のような図を見たことがあるだろう。だが,そうした領域ごとの役割を調べるだけでは,脳の機能は解明できないことがわかってきた。脳活動からどのように人間の思考や行動が生まれるかを探るには,神経細胞(ニューロン)同士がネットワークを形成し,互いに信号をやりとりしながら,集団として機能を「創発」していく過程の解明が不可欠だ。

 

 そうしたニューロン間のネットワークを脳全体について調べる野心的なプロジェクト「ブレイン・イニシアチブ」が,米国で始動した。2014年は1億円ドル以上の資金を投じ,脳内で起きている電気的な信号伝達を細胞レベルで高速検出するための技術開発に取り組む。

 

 候補技術の開発はすでに始まっている。一例は「膜電位イメージング」。ニューロンは発火すると,細胞膜の電位が変化する。電圧によって色が変わる色素をニューロンに取り込ませたり,遺伝子操作技術で細胞膜に作らせたりすることが可能になれば,ニューロンの膜電位そのものを画像として捉えることができるかもしれない。現在,色素を実際に細胞に届ける実験が始まっている。

 

 ニューロンのネットワークを調べる大規模プロジェクトは,米国だけでなく欧州や日本でも動き出している。脳研究の新たな時代が始まりつつある。

 

 

再録:別冊日経サイエンス201「意識と感覚の脳科学」

 

【関連動画】著者の1人,ユステによるTEDでのプレゼンテーション

著者

Rafael Yuste / George M. Church

ユステはコロンビア大学の生物科学と神経科学の教授で,カブリ財団の脳科学研究所の共同所長。米国立衛生研究所長官パイオニア賞を最近受賞した。チャーチはハーバード大学の遺伝学教授で,ヒトゲノムや神経画像,行動と認知形質に関するデータを公開するウェブサイトPersonalGenomes.orgを開設した。SCIENTIFIC AMERICANの編集顧問も務める。

原題名

The New Century of the Brain(SCIENTIFIC AMERICAN March 2014)

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