日経サイエンス  2014年6月号

フロントランナー挑む 第39回

宇宙線で火山を透視する:田中宏幸

小玉祥司(日本経済新聞編集委員)

宇宙から降り注ぐミュー粒子を使って火山のレントゲン写真を撮る
マグマの動きを捉え,火山の理解と防災につなげたい

 

 レントゲン写真のように火山の内部を透視して,マグマの動きやその通り道の様子を探る──東京大学地震研所教授の田中宏幸は,そんな新たな分野を切り開いてきた。エックス線の代わりに透視に用いるのは,宇宙から降り注ぐ「ミュー粒子」だ。対象は火山にとどまらず,建物などの欠陥や原子炉の内部など,社会にも広がり始めている。 (文中敬称略)

 「ミュー粒子が通ると,この中で青っぽい光が出るんです」。観測に使うプラスチック製のシンチレーター(左の写真)を手に,田中は説明する。ミュー粒子は質量が電子のおよそ200倍で,何kmもの厚さの岩盤も通り抜けるが,透過率は物体の密度によって異なる。そのためミュー粒子が飛来してきた方向と数をシンチレーターで測定すると,透過した物体の内部構造を描き出すことができる。例えばマグマは発泡しているために山体を作る周囲の岩に比べて密度が低く,ミュー粒子が多く通り抜ける。山体の中に空洞があれば,透過率はさらに大きくなる。

 透過したミュー粒子によって対象を可視化する技術を「ミュオグラフィ」と呼ぶ。田中らは昨年6月,9年ぶりに噴火した鹿児島県沖の火山島,薩摩硫黄島の中をマグマが上昇してくる様子を,ミュオグラフィによって連続撮影することに成功した。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

田中宏幸(たなか・ひろゆき)
東京大学地震研究所高エネルギー素粒子地球物理学研究センター教授。2004 年名古屋大学大学院博士課程修了,理学博士。同年米カリフォルニア大学リバーサイド校で博士研究員。06年に帰国し,日本学術振興会特別研究員として東京大学地震研究所で研究を始める。08年同所特任助教に就任,准教授をへて13年5月から現職。

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