日経サイエンス  2014年5月号

特集:無意識のわな

編集部

 「心とは氷山のようなものだ。その1/7を水面の上に出して漂う」。かつてフロイトはこう言った。彼は心の動きのうち意識に上るのはごく一部で,大半は水面下に沈んだ無意識の中にあると主張し,「無意識」の研究の端緒を開いた。今日心理学は,実験と洞察によって「無意識」の領域に切り込んでいる。そして私たちの意思決定や実際の行動が,驚くほど無意識の心の動きに支配されていることが明らかになりつつある。

 

 なぜ選挙でAではなくBに投票したのか。どうしてその人物のことを「冷たい人間だ」と感じたのか。私たちは普通,その理由を知っていると思っている。だがそうした判断には,実のところ私たちが意識している理由ではなく,パッと見た時の第一印象や,そのとき手にしていたコーヒーの温度がモノを言っていた可能性がある。私たちの思考は最初の印象や直前に聞いた話,自らの体の動きなど,様々な要素によって知らず知らずのうちに左右されている(30ページ「意思決定の心理学」)。

 

 無意識の判断は外部だけでなく,自分自身にも影響を及ぼす。試験の時に「知的能力を測るものだ」と言うと,何も言わなかった場合より黒人学生の成績が悪くなり,「記憶力には性差があるかもしれない」と言って記憶力をテストすると,女性の成績が悪くなる。自分が属する社会集団に対する否定的な固定観念が,当の本人を脅かすのだ(38ページ「ステレオタイプ脅威」)。

 

 無意識の判断は,しばしば意識的な判断を妨げることも知られている。チェスの展開によく知られた「定石」があると,熟達のプレーヤーですら,もっと強い手があることに気づかない(44ページ「アインシュテルング効果 良案が排除されるわけ」)。
こうした無意識の作用はなぜ起こり,抗う方法はあるのだろうか? 最新の心理学から,改めて「無意識」に迫ってみよう。

意思決定の心理学  J. A. バージ

ステレオタイプ脅威  E. ヤン

アインシュテルング効果:良案が排除されるわけ  M. ビラリッチ/P. マクラウド

 

 

再録:別冊日経サイエンス201「意識と感覚の脳科学」

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