日経サイエンス  2014年1月号

特集:量子世界の弱値

編集部

 かつてアインシュタインはこう言った。「私が見ていなくても,月はそこにあるはずだ」。アインシュタインの願いも空しく,月が「そこに」あると言うためには,月を見る者を必要とする。量子力学によれば,月の位置などの物理量は,測定されるまで値がない。

 

 だから「測定する前のことは問うても意味がない」と,物理学者は長らく考えてきた。意味があるのは,そこに見えている月だけだ。見ていなかった時の月について問うのは不毛であると。

 

 だが近年,測定によっていったん物理量の値が定まったら,そこから遡って過去の値を問うことはできる,という新しい考え方が注目を集めるようになった。イスラエルの物理学者,アハラノフ(Yakir Aharonov)氏らが提唱した「弱値」である。

 

 弱値は,ある物理量が測定される前に,どんな値をどのような確率で取っていたかを語る。それは量子力学の式から計算でき,実験によって測定できる値である。その点では研究者は皆,一致している。

 

 しかし弱値が一体何を表しているのか,物理的にどのような意味があるのかという点になると,議論はたちまち紛糾する。弱値はしばしば,普通の測定では決して見えないはずの値の存在を語る。しかもその存在確率はしばしば負になる。論争が熱くなる一方で,弱値を測定する実験は世界のあちこちで盛んに行われている。

 

 本特集では,議論が絶えない弱値について,2人の論客に寄稿して頂いた。東京工業大学名誉教授の細谷曉夫氏と,大阪大学教授の井元信之氏である。また提唱者アハラノフ氏へのインタビューも併せて紹介する。

 

「光子の裁判」再び  波乃光子は本当に無罪か  細谷曉夫

量子テレポーテーションと時間の矢  井元信之

光子は未来を知っている  語り:Y. アハラノフ/聞き手:古田彩

【特別WEB付録:無料配信】 もうひとつの「『光子の裁判』再び」  細谷曉夫

 

 

再録:別冊日経サイエンス199「量子の逆説」

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