日経サイエンス  2013年11月号

フロントランナー 挑む 第32回

レアアースの泥で日本の未来を拓く:加藤泰浩

中島林彦(編集部)

地球の太古の歴史を探るために太平洋の海底の泥を調べていて
誰も予想していなかった“ 宝物” を発見した
先端産業に必須でありながら,ほぼ全量を中国が独占する希少資源だ

 

 

 一編の論文で世界が変わることがある。ハイブリッド車や電気自動車,風力発電,燃料電池,水素吸蔵合金,レーザー,超電導材料など先端産業に必須の希少資源,レアアース(希土類)が膨大な量,太平洋の海底に眠っていることを明らかにした2011年7月3日付(英国時間)のNature Geoscience電子版の論文もその一例かもしれない。推定埋蔵量は陸域の埋蔵量の約1000倍。全国紙が一面で報じ,海外主要メディアも大きく取り上げた。日本の排他的経済水域である小笠原諸島の南鳥島周辺も有望なレアアース鉱床の1つで,詳しい調査と採掘技術の開発が始まっている。この論文の筆頭著者で,海底レアアース資源開発の旗振り役が地質学者の加藤泰浩だ。

(文中敬称略)

 

 「よくリクエストされるんですよ」と言いながら薄茶色の粉が入った数本の小瓶を出してきた(左ページの写真,加藤が手にしているのはその1つ)。 今年1月,海洋研究開発機構の深海調査研究船「かいれい」が南鳥島沖の水深5000mを超える海底から採集した泥の乾燥試料だ。レアアースを大量に含むので「レアアース泥」と呼ばれる。加藤の目論見通りに事が進めば,これらの小瓶に入った粉末は,将来,大型採掘船によって年間約300万トンが引き上げられることになる純国産レアアース資源の最初のひとつまみになる。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

加藤泰浩(かとう・やすひろ)
東京大学大学院工学系研究科教授。1961年埼玉県生まれ。85年東京大学理学部地学科卒業,90年同大学大学院理学系研究科博士課程修了,理学博士。山口大学理学部助手,米ハーバード大学と英ケンブリッジ大学の客員研究員,東京大学大学院助教授,同准教授などを経て2012年から現職。海洋研究開発機構(JAMSTEC)海底資源研究プロジェクト招聘上席研究員を兼務。著書に『太平洋のレアアース泥が日本を救う』(PHP 新書,2012年)がある。小さい頃熱中した昆虫採集を再び始めた。

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