日経サイエンス  2013年3月号

呼吸する有機材料を自在に設計する:北川進

永田好生(日本経済新聞編集委員)

自分の重さの何倍もの気体を吸って,また吐き出す──

ナノスケールの微細な孔がびっしりとあいた有機材料は

エネルギーの貯蔵庫となり,触媒の可能性をも秘めている

 

 

 人類が活性炭を発見したのはおよそ3000年前。鉱石から天然のゼオライトが見つかってから約250年。それに続く新しい多孔質材料が登場したのは1997年だ。「まだ15年しかたっていない。温かく見守ってほしいね」。最初に合成した京都大学教授の北川進はこの新材料を解説する時,必ずこう付け加えている。 (文中敬称略)

 

 2012年11月,北川は総合科学技術会議ナノテクノロジー・材料共通基盤技術検討ワーキンググループに呼ばれ,「最も小さな空間こそ科学と技術の宝庫である」と熱弁を振るった。新たな多孔質材料には,活性炭やゼオライトなど既存の多孔質材料にはないまったく新しい機能が現れる。物質の科学が一段と深まり,さらに私たちの日常生活をエネルギー・資源の側面から大きく変換する可能性を秘めている,と力をこめた。

 この多孔質材料は多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymers),略してPCPと呼ばれる。金属イオンと架橋性のある有機物を単純に混ぜ合わせるだけで自己集積してできあがる。北川が世界に先駆けて合成し,97年,ドイツの化学専門誌に発表した。

 それまでにも有機物を使って多孔質材料を合成する研究はあった。しかし,製法が難しかったり,材料が不安定ですぐに壊れてしまったりする欠点があり,性能は無機物の活性炭やゼオライトにはるかに及ばなかった。そのため「有機物では無理」と考えられていた。

 だが北川が合成したPCPは,メタンや窒素などの気体を注入して再び取り出しても壊れない。合成も簡単だ。「これまでにない材料ができた」と手応えを感じていたが,論文発表の直後は「常識に反する材料」と信じてもらえず,関心もほとんど払われなかった。

 

 だが,状況は翌98年に一変した。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

北川進(きたがわ・すすむ)
京都大学大学院教授。1951年京都市生まれ。79年京都大学博士課程修了,工学博士。米テキサスA&M大学博士研究員,近畿大学理工学部助教授,東京都立大学(現首都大学東京)教授を経て,98年京都大学教授。2008年にドイツの「フンボルト賞」,10年に「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を受賞。京都大学物質-細胞統合システム拠点長,科学技術振興機構「北川統合細孔プロジェクト」の研究総括を務める。