日経サイエンス  2012年8月号

フロントランナー 挑む 第18回

エイズの治療薬を最速で出し続ける:満屋裕明

古田彩(編集部)

治療薬の進歩は,エイズを死に至る病から慢性疾患に変えた

研究のスピードは,救える患者の命の数に直結する

4つの治療薬を作り,第5の薬を目指して日本での臨床開発に乗り出す

 

 

 満屋裕明は片時も立ち止まらない。医学部の古い研究棟の廊下を,ほとんど走るように歩く。人なつこい笑みを見せつつ早口で機関銃のように話し,相手はいつしかそのペースに乗せられている。熊本と米国のベセスダ,東京・新宿の3カ所を飛び回り,スケジュールは常に分刻み。かつてエイズの最初の治療薬を世に送り出し,治療の基本路線を決定づけ,今もこの分野の先頭を最速で走り続けている。(文中敬称略)

 

 ここ四半世紀で,エイズほど風景の変わった病気はないだろう。かつてエイズは死を意味していた。多くの若者や働き盛りが突然免疫機能を失い,体中を細菌やウイルスに蝕まれる。肺炎やがん,脳症に陥り,2年以内に9割近くが死亡する。それがエイズだった。

 だが状況は劇的に変わった。今では早期に治療を開始すれば,まず死ぬことはない。根治はできないが,薬を飲みながら普通に仕事をし,安心して子供を持つこともできる。デンマークでの推計によると,2000〜05年に25歳で感染した人の平均余命は32.5年。現在はもっと延びているはずだ。エイズは25年で,「死に至る病」から「持病」のひとつになった。

 状況を変えたのは治療薬の躍進だ。これまでに25種類の薬が承認され,満屋はうち4つを見いだした。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

満屋 裕明(みつや・ひろあき)
1950年長崎県生まれ。75年熊本大学医学部卒業,内科医となる。82年医学博士取得,米国立癌研究所(NCI)客員研究員。主任研究員を経て91年レトロウイルス感染症部長。97年熊本大学医学部内科学第2講座教授。2012年国立国際医療研究センタ ー臨床研究センター長。米国微生物アカデミーフェロー。紫綬褒章,慶応医学賞など受賞多数。

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